100-9 「ひとさらい」
100-9 「ひとさらい」
「鈴木さん、これは自分が昔、経験した怖い話なんですが、聞いてくれますか?」
誠が拝み屋をしていると知っているのだろう、誠は知り合いから、たまにこうして、その人の奇妙な経験を話されることがある。
聞くのは別にかまわないが、だからといって、なにかしてあげられるとは限らない。
話す相手にあらかじめそれを伝えたうえで、誠は話を聞く。
「このへんの地方の話です。
もう30年も昔のことです。
町はずれの山道には、神隠しの噂がありました。
それこそ、明治、大正の大昔から人が消えたりしていたらしい。
小さな神社がある以外は、あのあたりにはなにもありません。
徒歩で一時間もあれば頂上まで登れる小さな山だ。
舗装されていないし、街灯もないので、町の人間は大人も子供も、普段そこを訪れるものはほとんどいません。
一時期、その山の付近が外国人の子供たちの遊び場になった。
外国人の子供たちは、親の都合か、本当なら就学する年齢になっても、学校へも行かずに、昼間から町をうろついていたりしていた。
そんな彼らが、山に集まるようになったんです。
治安維持のために、警察がパトロールを強化して、山の周囲には子供は近づかないように、学校からも注意がだされた。
しかし、そんな時だからこそ、山の様子を見に行く子供もいます。
私が山へ行ったのも、そんな好奇心からでした。
外人の子供が集まって、警察が見回りにきて、いったい、山でなにをしてるんだろ。
私は人目につかないように、わざと山道からはずれて、木々の間を通って、林の中の神社へとむかいました。
平日の夕方でした。
木の後ろに身を隠しながら、境内の様子をうかがいました。
境内には噂通り、外国人の子供たちがいました。
みたところ、年の頃は、歳は当時の私と同じくらいでした。
彼らは学校へ来ていないので、知らない顔ばかりでした。
子供たちはサッカーボールを持ってきていて、みんなでボールで遊んでいました。
別になんにも悪いことはしてません。
私は、彼らのサッカー遊びを眺めているうちに、だんだん、仲間に入りたくなってきました。
でも、外国人の子たちが仲良くしてくれないかもしれません。
どうしよう?
あれこれ1人で考えてるうちに、子供たちの声が止みました。
いつの間にか、外国人の大人が何人か境内にいました。
体格のいい大人の男たちです。
大人たちは、子供らを整列させて、境内に並ばせました。
大人の手には、拳銃のようなものがありました。
おもちゃか、本物なのか、わかりません。
あれが本物なのなら、私は、初めて本物の拳銃を見ました。
大人たちに拳銃をむけられて、子供たちはおとなしくしていました。
逃げだそうとした子がいましたが、大人はその子の頭に銃口をあて、引き金を引いた。
「ぱんっ!」
と音がして、子供は倒れました。
大人たちが日本語ではない外国の言葉で怒鳴りました。
子供たちは騒がずに大人に連れられ、神社の前に止められていた車に乗り込んでいきました。
倒れた子供も大人が抱えていきました。
大人も子供も全員乗ると、車は行ってしまいました。
私は、気がつくと、おしっこをもらしていました。
声をださないように我慢するのが精一杯だったのです。
それから、私は普段から暗くなった。クラスでも、誰ともしゃべらなくなりました。
結局、大人になるまで、この話は隠し続けました。
こうして人に話すのは今日がはじめてです。
もちろん、しゃべってしまうと、あの男たちが自分のところに来る気がして怖かったからです」
「事件はおおやけにならなかったんですか?」
「私が知る限り、新聞もTVも報道していません。
あくまで、この地域に関する、外国人たちのうちうちの出来事だったんだと思います。
信じてください。
私は、本当に見たんです!」
「僕は、嘘だとは思いませんよ」
「鈴木さん。こんな何十年も前の出来事をいつまでも心の中に閉まって、いまでもたまに、1人で、「あの時、なにがあったのか」と、考えたりしている私は、頭がどうかしているんでしょうか?
警察へ行って、いまからでも、調べてもらった方がいいのでしょうか?」
「これはもう何十年も前に終わってしまっている出来事ですから、僕は、あなたの心がやすまるようにすれば、それでいいと思いますよ。
誰にも話さずに、忘れてしまってもいい。
あなたは、なにも悪いことはしていない。
たまたま事件を目撃してしまっただけじゃないですか」
「そうですね。その通りです。
この話が、私がいままで経験した中で、1番、怖い話です。
いまでも、夢にみて、夜中に飛び起きたりするんですよ」
「話していただいて、ありがとうございました。
こんなに長い間、1人で抱えておられて、お疲れさまでした」
誠は心をこめて、深く頭を下げた。
自分にできることは、それくらいしかない、と思いながら。
END
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9話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
これまでのブログ同様、ご意見、ご感想、お待ちしてます。
今日も楽しいですね。
少し毛色の違った怪談です。
「怖い話、知りませんか?」
と人に尋ねた結果、あっと驚くような引き出しを開けてしまうことがあります。
私はそんな時は、だいたい、聞かなかったことにして、忘れてしまうことが多いです。
ところで、あなた自身の怖い話に、怪異はでてきますか?