100-14 「またか」
100-14 「またか」
拝み屋、霊能者として看板をあげてはいるものの、やはりそれだけでは収入は少なかった。
そこで、誠はたまにアルバイトをしている。
業種は特に選ばない、収入になれば、なんでもいい感じだ。
バイトを通じて、人生経験が得られるのも、うれしい。
その日のバイトは、飛び込みの営業だった。
英語教材のサンプルを持って、先輩の社員と一緒に、街を歩きまわった。
契約がとれれば、1件で会社には20万円以上の収入、誠には数万円のプラスになる。
しかし、実際にやってみると契約が取れる確率は、100分の1以下だった。
門前払いがほとんど、玄関に入れてももらえない。
「鈴木さん、普段はなにしてるの?」
「霊能力者です」
「それ、儲かるの?」
「儲かりませんよ」
「占いとかはしないの?」
「それはしないです」
先輩社員のBさんは、この仕事のベテランで、何年間も毎日、こうして飛び込み営業をしているらしい。
「でも、すごいですし、僕、こうして朝から半日やってますけど、まだ契約ゼロですよね。
よくこれで、契約が取れるな、って思いますよ」
「それが取れるんだな」
当たり前のことのようにBは言う。
「1日のうち、ほとんどは無駄なんだけど、その無駄の積み重ねの後に、ちゃんとご褒美があるんだよ」
「そういうもんですか?」
「ああ。そういうもん。オレは、だいたい1日、1件だから。
今日も帰りまでに1件とるよ」
本当かなぁ、と思ったが、誠は黙っていた。
「1日最低、1件は取れる」と思い込んでいないと、精神的にまいってしまって、この仕事は続けられないかもしれない。
朝の10時から、夕方の4時すぎまで2人は歩き続けた。
中に入れてくれて、話を聞いてくれたお宅も数件あったが、それでも契約までは至らなかった。
「Bさんは、学校でてから、ずっとこのお仕事ですか?」
「いや、オレの家は会社やっててね。親父がそこの社長なの。
オレははじめ、そこに就職したんだけど、なんか違う気がして、このセールスマンに転職したんだ」
「なんか違うって、どういう意味ですか?」
「社長の家に生まれて、親の会社に就職して、そこそこ普通の暮らしがずっとできてって、恵まれすぎてるっていうか、オレは毎日、こうして歩きまわる方が、自分にあってると思うんだ。
歩いて歩いて歩いて、頭をさげて、1日1件、契約をとる」
それはそれですごい、と誠は思う。
4時半をすぎた。
もうすぐ会社の迎えの車に乗って事務所へ戻らなくてはならない。
本日の営業は終了だ。
今日は、さすがのBさんも契約ゼロかな。
2人が訪れたその家は、老父婦が暮らしていた。
Bも誠もマニュアル通りの営業トークを展開した。
今日1日、あちこちのお宅でしていた作業の繰り返しだ。
「で、この書類にハンコを押せばいいのかい?」
「はい。ありがとうございます」
Bがだした書類に必要事項を書き込むと、老人はあっさりハンを押した。
契約成立である。
話があっさり進んだので、15分もかからなかった。
「ね、1日1件でしょ」
帰り道、Bは当たり前のようにつぶやく。
「いまのお客さん、なんなんですか?あんなにあっさり」
「オレには1日1件、ああいうお客さんがくるんだよ」
「え?なんでって、感じですけど??」
「さぁ、なんでだろうね。運命かな。オレもわかんない」
誠にもわからなかった。
あの家で、あの夫婦とBが出会ったのは、運命としか言いようがない。
誠とBが会社の車が待っている駐車場へむかって歩いていると、遠くから声がした。
誰かが叫んでいる。
誠は足を止め、声がした方を眺めた。
2人がいる場所から少し先にある、マンションの上の方の階で、誰かが叫んでいるようだ。
なにを言っているのかはわからないが、男性が大声を張り上げている。
と、よく見ていると、マンションの角部屋の窓が内側から乱暴に開かれた。
そして、手錠でつながれた両手首が、ぐっと窓から突き出された。
「なんなんですか、あれ・・・」
誠が茫然としていると、Bはそのまま、そこを歩み去ろうとした。
「Bさん、ちょっと、」
「鈴木くん。オレ、ああいうの見ること多いんだわ。早く、行った方がいい。気にしないで」
「うああああああああああああ!!!!!」
また男が叫んでいる。
誠が見ると、男は、手首だけでなく、小さな窓に頭を突っ込んで、外へでようとしている。
「やめろ!」
「なかに入れ!!」
別の人たちの声もした。
男に呼びかけているようだ。
つまり、男がトイレかバスルームにこもっていて、他の人が外からそれを止めようとしている状況らしい。
バキン!バキン!!
外側から誰かがドアを壊そうとしているらしい衝撃音がした。
「うわっ!?」
誠がつい悲鳴をあげてしまったのは、男が今度は窓から、足を突きだしてきたからだ。
「Bさん、あれ!!」
誠が何度も呼ぶので、Bはついに足を止めて、男がいる方を眺めた。
ちょうど、Bがそちらを見たタイミングで、男は窓から首をだして、こちらを向いた。
Bと男の目があった。
「ぎゃははははは!!!!!」
男はけたたましく笑いだした。
そのまま、男は窓から上体をのりだして、下へ落ちた。
どさっと、重い物が落ちた音がした。
男が落ちた窓から2、3人が顔をだして、下を眺めている。
「Bさん。あれ、自殺・・・」
「あの人、オレを見て笑ってたよね。
オレ、こういうのよくあるんだよ。
自殺してる人と、たまたま、目があっちゃうの。
これも運命だよね」
END
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14話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
これまでのブログ同様、ご意見、ご感想、お待ちしてます。
今回の話は、モデルさんのいる体験談です。
今日も楽しいですね。