100-12 「上へまいります」
100-12 「上へまいります」
建設時から悪い噂の多いビルだった。
地方都市の駅ビルとしては、破格の規模を誇るビルではあるが、事故が多かった。
工事中にエレベーターが墜落し、下にいた作業員が死亡。
先行オープンしていた地下の施設でガス爆発が起こり、30名が死亡し、441名が負傷した。
あまりの不幸続きに建設中に、市民団体から工事の中止を求める声があがったほどだ。
予定の倍近い工期をかけて完成、オープンしたビルは、商業施設としては振るわず、開店直後から集客に苦戦した。
しかし怪奇現象と出会える心霊スポットとしては、ネットを中心に全国にその名をとどろかせた。
施設がオープンして一年後、集客の悪かった西館ビルは早くも封鎖され、廃墟となっていた。
地元の若者たちの間では、テナント店も撤退して、廃墟となった西館に忍び込むのが流行した。
当然、館内で怪しい人影を見た等の怪談も流れた。
G、S、Nの3人が深夜の西館に忍び込んだのもその頃だった。
3人は地元の中学生で、幼なじみだ。
ちょっとした肝試しにいく感覚だった。
親には内緒で家を抜け出し、午前零時に待ち合わせた。
3人は、噂で聞いていた通り、機材搬入口の柵を乗り越えて、西館の敷地に入った。
ガラスの割られた扉からビル内へ。
もちろん、中は真っ暗なので、用意してきた懐中電灯であたりの様子をうかがった。
閉鎖してからまだ日が浅いので、店内は比較的きれいだった。
出入り口の扉以外はガラスもほとんど割れていない。
3人が探したのは、エレベーターだった。
これもまた噂によるとエレベーターには、でるらしい。
墜落事故で亡くなった工事作業員だったり、ガス爆発でなくなった中年女性だったり、話によってまちまちだったが、とにかくエレベーターには人ではない、なにかがいるらしかった。
3人はビルのほぼ中央にある5基のエレベーターの前までくると、まず、エレベーターの呼びだしボタンを押してみた。電気は通っていないし、やはり、エレベーターはこない。
「よし、じゃぁ、人力で扉をあけてみよう」
3人で力を合せて、エレベーターの扉を開けることにした。
扉は重く、しばらく時間はかかったが開けることができた。
開けてみると、そこには、人が乗る箱はきていなかった。
電源を切られ、放置されたエレベーターは最下階の地下階に降りているらしい。
と、3人が扉から下を覗き込んでいると、上から、
「チン♪」
とまるで、エレベーターが階に停止した時に鳴るような音が聞こえた。
「えっ・・・?」
と3人は顔を見合わせ首を横に振る。
「チン♪」
また、音がした。
「えっ??聞こえたよな???」
「うん。聞こえた」
「なんだ、あれ?」
もちろんエレベーターは動いていない。
3人は怖くなって、エレベーターから離れようとした。
そして、3人が頭を引っ込めてエレベーターから離れると、今度は、さっき、苦労して開けたエレベーターの扉が自動的にしまった。
「チン♪」
「チン♪」
「チン♪」
ホールに5基あるエレベーターそれぞれから音がす。
エレベーターの制御盤にもいつの間にか電気が通っていて、それぞれが各階へ移動したりして動いているようだ。
エレベーター各機が動いている音がする。
3人は、パニックになった。
「どうなってるんだ!?」
「やばいぜ!!」
「逃げようよ!!!」
誰に責任があるのか、考えている余裕もなかった。
三人は、必死で駆けだした。
どうにか西館を抜けて、そのまま、ダッシュして機材置場の柵を乗り越えて、敷地からでた。
そこでようやく一息つくように、地面に座り込んだ。
「おい、Nは?」
「え?先に行ったろ??」
「いや、いねぇ。あいつ、俺より先は行ってない」
「Nはどこだ??」
「おーい、N!!」
GとSは姿の見えなくなったNを呼んだが、返事はなかった。
しばらくそこで叫んでいたのだが、このままではしょうがない、ということで2人は、西館へ戻るしかない、と決意した。
しかし、戻るのは、やっぱり怖い。
それでも友達も見捨てては帰れないと二人は再び、西館のエレベーターホールへと戻った。
ホールはまた電気が落ちている。
「N、どこにもいないよな・・・?」
「うん。いなかった」
「もしかしたら、先に帰ったのかも」
「まさか、それはない気がするけど」
「そうなるとエレベーターの中くらいしか探すとこないぞ」
「ああ。あそこぐらいしかないね」
2人は相談して、もう1度、さっき扉を開けたエレベーターの前に立った。
扉に手をかけ、
「せーのー」で扉を開けようとし、
「せーのー!!」
2人が力を入れようとした瞬間、扉は勝手に開いた。
エレベーターは来ていない。
中は真っ暗だ。
2人は茫然と立ち尽くした。
「上へまいります。よろしいですか?」
女性の声がした。
ここには、2人以外、誰もいない。
2人は金縛りにあったように動けなかった。
「上へまいります。よろしいですか?」
再び、聞かれた。
答えずにいると扉は閉まった。
エレベーターが動く音がした。
「うわわわわわわわ~!!!!!」
同時に叫び声をあげて2人は逃げだした。
Nはその日の西館で行方不明になった。
警察に捜索願もだされたが、見つからなかったらしい。
END
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12話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
これまでのブログ同様、ご意見、ご感想、お待ちしてます。
今日も楽しいですね。
廃墟には怪談がつきものです。
また怪談には行方不明がつきものです。
そう思いませんか?