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いおちゃん 四

 

(僕がこうして、いおちゃんといおちゃんを引き合わせるのは、運命だったんだと思う。

博士も人間の人生など大いなる運命に踊らされているのにすぎない、って言っていた。

僕が創った、いおちゃんは特別だから、運命の枠からも外れたところにいるんだ。

だって彼女は、本物の天使なんだから)

 

各100枚以上ずつの握手券を持ってきた、いおと信良は、希望通り、蒼月いおと対面することができた。

会場内の小さな個室で、いおと信良といおの3人きりだ。

薄いドアの向こうにはスタッフがいるが、とりあえずいま、ここには3人だけ。

信良がめくばせすると、一緒にきたいおは、帽子、オーバーを脱ぎ、サングラスを外した。

 

「え!!」

 

声をあげたのは、それを見ていた。蒼月いおだった。

いおが目をまるくして、いおを見ている。

 

「あなた、誰ですか?」

 

自分と同じ姿形、衣装を着た人物に目の前にあらわれられて、いおは、あ然としている。

 

「わたし、蒼月いおです」

 

吐息が触れ合いそうな距離で、いおが、いおにこたえた。

信良は、黙って二人の様子を見つめている。

 

(やっぱり、いおちゃんはいおちゃんだ。

2人は同じだ。

僕は、やったんだ。

僕は、天使を創ったんだ)

 

静かな興奮に包まれて、信良は握りしめた拳に力を込めた。

 

「ちょっと、あの、すみません」

 

初めからいる方のいおが、いまきたいおの手首をつかみ、彼女の手首を引き寄せて、自分の手の平と並べて見比べている。

 

「嘘。同じっ!!」

 

手相が同じか確認したらしい。

 

「あのー、わたしは、誰ですか?」

 

信良が連れてきたいおが尋ねた。

聞かれたいおは、ほんのすこし黙ってから、自信なさげに、

 

「蒼月いお、さん」

 

「はい」

 

自分の名前を呼ばれた、いおが答える。

 

(いおちゃんが、僕が創ったいおちゃんをいおちゃんだと認めた。

俺のいおちゃんは、いおちゃんに認められた)

 

感激と興奮が極みに達したのか、信良はたちくらみを起こして、体勢が崩れた。

頭がくらくらして立ってられない。

 

(僕はもう時間切れか? それならそれでもいいや。こうしていおちゃんを会わせることもできた。博士、いおちゃん、ありがとう)

 

膝の力が抜けて、横倒しに床に倒れた。

体に力が入らない、無理し続けてきた身体に、限界がきたようだ。

信良は、床に頭を預け、まぶたを閉じる。

 

(もういいんだ。

全部、うまくいった。

もういいんだ)

 

暗闇に支配されつつある信良の意識に、2人のいおの声が響く。

 

「あの人、倒れてるけど、誰かスタッフの人、早く。うわっ、ちょっと、なに」

 

がざがさと人のもつれる音、いおがいおを抱きしめたらしい。

 

「あなたは、この人に信じれないくらい愛されていたんですよ。

あなたを天使だと思ってくれてる人が何人もいるんです。

だから、わたしが生まれた。

あなたには何人もの魔法使いさんがついてるのよ。

それを忘れないで」

 

「え。あ、はい。えー。あなた、なにする気、ちょっと、誰か、早くぅ」

 

いおの絶叫じみた声の後、ドアの開く音、数人の足音、それから、

 

「お父さん。

お父さんがいくみたいだから、わたしも行くね。

お父さん、ありがとう。楽しかった」

 

ぺしぺしと優しく頬を叩かれて、命の火が消える寸前に、信良が瞳を開けて見、聞き、感じたのは、裸体で信良を抱きしめるいおと、その言葉だった。

信良はその場で絶命した。

直後、会場は原因不明の停電に見舞われ、数分間、明かりが消えた。

それが復旧した時には、もう1人の蒼月いおの姿は、どこにもなかった。

 

菅原信良の遺体は解剖され、死因は老衰と診断された。

実年齢40歳のはずの信良の肉体は、100歳を超えた高齢者並みに疲弊しており、いつ亡くなってもおかしくない状態だったのが確認された。

なぜ、そのような体をしていたのか原因は不明である。

信良の遺骨は長年、離れて暮らしていた家族ではなく、友人の望月義之らが引き取った。

 

なお、アイドル蒼月いお。本名は、荒木伊織。22歳は参考人として任意の取り調べを受けたが、今回の事件に関しては一切の関与はないと判断され、不問に処された。

 

現在もAUCは活動中です。

数々の試練!? を経て成長した蒼月いおは、先頃、AUC4代目リーダーに任命され、アイドル兼女優として、芸能界で活躍しています。

 

「魔法使いさんたち、元気ですかぁ? いおはまだまだ頑張っちゃいますから、みんなついてきてね!! 一緒だよ」

 

END

 

☆☆☆☆☆

いおちゃん(僕が創った天使から改名しました) 完結です。

お読みいただき、ありがとうございました。

以前、公開した百物語の「きみを食べたい」が好評!? でしたので、そこから、着想してもう少し長いものを久しぶりに書いてみました。楽しんでいただけるとうれしいです。 

www.honkidehon.work

 いまさらですが、ものを書くのが好きです。

そして、それを読んでくれた方が楽しんで下さるとなおうれしいです。

さて、100物語の続きでは、誠がお待ちかねですね。Tのとっておきの体験とはなんなのでしょうか?

されでは、本日は以上です。

あろがとうございました。

失礼します。

 

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