100-51 死に顔
100-51 死に顔
「私の母の死は壮絶でした」
母親の死に疑問を持っているというMさんに、誠は、「ちょっと話を聞いてもらえますか?」と頼まれた。
ただ話を聞くだけなら別に無料で構わない、と誠がこたえると、「私の話を聞いて鈴木さんになにかできることがあったら、お願いします」と、言う。
「母は、一人暮らしでした。
そして自宅で腐乱死体で発見されたのです。
田舎で近所に民家も少なく、雨季だったので、多湿のじめじめした屋内に、数日間放置されていた母は、警察も私たち家族が来る前に燃やしてお骨にしておいたくらい、ひどい状態だったのです」
「あの、お母さんの死因は、なんだったんですか?」
「実はたまたま来た宅配屋が、異臭に気づいて家の中を覗いたら、母はすでにこと切れていて、腐乱していたので、警察も不審死として解剖はしたのですが、はっきりした死因はわかってないのです。
屋内は荒らされていました。
畳ははがされ、一部の床板もなかった。
金目のもの目当てに、家探しされたような感じだったと、警察は言ってました」
「強盗にでも襲われた可能性は?」
「警察もその線で捜査したんですが、母のもの以外は、指紋も見つからず、畳も床板も母自身がやったとしか考えられないそうです」
誠はMの話を自分の頭の中で、整理して口にしてみた。
「一人暮らしのお母さんが、突然、発作に襲われて、一時はどうにか、生き延びたものの、錯乱してしまって、自分で畳や床をはがした後、再び、発作に襲われて息絶えた。
こう考えるのが、一番、スジが通ってるんじゃないでしょうか?」
「私の中でひっかかっているのは、警察の人の話によると、母の死に顔は、それは、壮絶なものだったそうです。
腐乱した死体の顔が、すさまじい表情を浮かべていたと。
鈴木さん、死の間際に母は、いったい何を見たのでしょうか?
思い残すことがあったんですかねぇ。
突然死でしたが、80を超えて、大往生といえないこともないのです。
しかし、にしては、母はなにをそんなに苦しんで死んでいったのか?
断末魔の心臓や、脳がそんなに痛んだのか?
いまとなっては謎ですね。
鈴木さんは、霊能力者でしょう?こうした時に亡くなった母と話をすることはできないんですか?」
「思うままに死者と話をするような力は、僕にはありません。
ただ・・・・・・」
誠は言葉を切った。
誠としてはここからが、本題なのだ。
「僕はさっきから気になってることがありまして、それがあったから、Mさんのお話をお聞きしたんですが、Mさん、僕は霊能者を名乗って商売をしている人間です。
いきなりこんなことを言うとなんですが、僕は、みえるんですよ」
「ほんとにですか、いったい、なにがみえるんです?」
「あなたの背後に黒い影がついています。
それはおそらく、亡くなられたお母さんの思いのようなものだと思います」
「母が私の後ろにいるのですか?」
「はい」
実際、誠にはみえているのだから、そう伝えるしかない。
「母は、私になにか伝えたいのでしょうか?」
「Mさん。
ここからは、僕の解釈なのですが、あなたには近い将来、わざわいが降りかかるのかもしれません。
おそらく、いまわの際のお母さんは、あなたの未来をみたのだと思います。
できることなら食い止めたい悲惨な未来のようです。
彼女はそれを止めてあげたくて、あなたについているのだと思います。
なにか、思い当たるフシはありますか?」
「私の、未来・・・?
近い将来。
悲惨な結末・・・」
Mは途切れ途切れにつぶやくと手の平で目をおおった。
そして、黙った。
思いあたりがあるらしい。
「もう自分の死期を悟ったお母さんが、驚愕の表情を浮かべるほどに恐怖したのは、大事な肉親の未来にだったということだと思います」
「鈴木さん、いや、鈴木先生、どうしてそこまで?」
「今回の件に限らず、親御さんのお子さんを思う情というのは、はかりしれないものがあります。
あなたはこれまで、お母さんが生きていおられた時にも、いろいろ助けられていたはずです。
亡くなったからといって、情が消えるわけじゃない」
「鈴木先生。すみません」
Mは目をおおったまま、誠に頭を下げた。
「私は
「僕に話す必要はありません。
なにがいけないのかわかったのなら、直せばよいと思います。
お母さんはあなたを見守っておられますよ。
他人の僕が感じられるくらいですから、あなたもお母さんの存在を感じているはずです」
「ええ」
Mは誠に礼を言って去っていった。
その後、Mから届いたハガキには、「母の死をきっかけに事業を清算し、人間関係もリセットして、人生をやり直します」との文があった。
誠は、わずかばかりだが、役に立てた気がしてうれしかった。
END
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51話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
実際に拝み屋さんのお世話になるのは、派手な能力バトルなどではなくて、こうしたささいなことが多い気がします。
僕の実体験ではそうでした。
あなたも、家相などの工夫で運命が上昇気流になったことはありませんか?
みなさんのご意見、ご感想、お待ちしてます。