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いおちゃん 三

(いおちゃんをいおちゃんに会わせるには、僕一人の力じゃむりだ。

でも、それがいおちゃんの願いだったら、僕は叶えてあげないといけない。

望月さんなら、きっと力になってくれる)

 

孝義を自分のアパートに連れて帰り、いおと対面させた信良は、そのまま、その晩はいおと孝義を二人きりにさせ、自分は近所のネカフェで一夜を過ごした。

翌朝、晴れて蒼月いおと結ばれた孝義は、自分はこれまで童貞だったと信良に告白した。

 

「死ぬまでこのままでもよかったんだけど、いおちゃんにどうしてもって言われたら、やっぱり断れないよ」

 

孝義は、うれしそうで、そして、恥ずかしそうだった。

 

(いおちゃんを通じて、望月さんと僕は身も心も兄弟になれた。よかった)

 

信良が蒼月いおと暮らすようになった詳しい話を、信良はできる限りわかりやすく説明したつもりだったが、孝義はやはり納得できなくて、なんども信良に聞き返してきた。

 

「つまり、刑務所にいたその博士が、人間を作る方法を知ってたんだろ?」

 

「僕以外は誰も信じてなかったけど、博士はまるで魔法使いだった」

 

「これは、魔法なのか?」

 

「違う。オーバーテクノロジーだって言ってた。

高度に発達しすぎた科学は、無知なものには魔法にしか見えないって」

 

「どっちなんだよ!?」

 

「僕にはわからない。

けど、博士の言う通りにしたら、本当にできたんだ。

博士の方法は、いおちゃんの髪の毛を集めたり、死体を集めたり、人間の血を使ったりで、僕がいおちゃんと同じB型でほんとによかった。

まるで気が狂いそうになるようなことをたくさんさせられたよ。

でも、僕はいおちゃんを手に入れた。

僕も望月さんも、いおちゃんと結ばれたんだ。

ただ僕の体はぼろぼろになっちゃってて、もう長生きできないみたいだけど、それでもいいんだ。

いおちゃんは、ずっとこのまま、生き続ける。彼女は奇跡だ。最高傑作だって博士も言ってた」

 

信良の話を聞きながら、孝義は首を傾げる。

 

「これで、ここに本当にいおちゃんがいなかったら、菅原くんの話は俺も信じられないよ。けど、いおちゃんいるんだよな?」

 

信良のアパートに同居しているのは、まぎれもなく本物の蒼月いおだった。

熱狂的ファンの信良と孝義が本物だと認めるしかないのだ。

 

(望月さんが面会に来た夜、どこかで僕のファンぶりを聞きつけた博士が話しかけてきたんだ。

この星にはない技術を使えば、蒼月いおをお前のものにできるぞ、おまえ自身の寿命は縮むがそれでもいいか? 僕は、あまり深く考えずに、頷いた。

それが本当ならなんでもよかった。

博士はひどい年寄りでいつ死んでもおかしくない感じだった。どんな犯罪で収監されているのか、出所の予定はまったくないらしかった。

いままでも誰も犯していないし、これからも誰にも犯せないだろう罪を遠い昔に犯してしまったって、博士は言ってた。

博士は、僕が刑務所にいる三年三ヵ月間で、僕に知識を教え込んでくれた。

 

人間の創り方。

 

僕は刑務所をでてから、1人でそれを実行した。

あれから博士にあっていないけど、ずべては博士が教えてくれた通りになっている)

信良と一緒に暮らして、いよいよ本物の、というかもともといる蒼月いおに対面させるのは、いおの所属しているAUCの握手会で行うことにきめた。

信良と孝義が、いおをいおの前に連れて行くだけだ。

しかし、いおと対面するまでは、コートを着て、マスクをして顔を隠し、いおであるのを隠しておかないと騒ぎになってしまう。

信良と孝義は、AUCファンクラブ時代の信頼できる仲間に連絡して、協力者を募った。

 

「いおちゃんに、どうしても会わせたい人がいるんだ。

ほら、いおちゃんって、親がワケアリだろ。だから、表にでてこれない双子の姉妹がいるんだよ。

いおちゃんそっくりの女の子。

その子がどうしても、いおちゃんに会いたがってるんだ。

ちょっと助けてくれないか?」

 

孝義からのこの連絡に、10名を越える人達が協力を承諾してくれた。

そして、当日、信良の部屋に集まった仲間たちの前に、まさに最近、いおが着ているのとまったく同じ衣装を着たいおが姿を現した。

 

「おおーっ、神、降臨ですよ!」

 

「なんだこれは!本物としか思えん!」

 

「まじ、姉妹なんですか!?どう見ても本人なんですけど!」

 

興奮しきっている仲間たちに、感謝の握手と抱擁を交わし、いおは全員と個別の記念撮影をした。

孝義と親しい者たちはやはりAUCの中でも、いおのファンの者ばかりで、彼らにとっては、孝義や信良と同じく、蒼月いおは、天使なのだ。

 

「わたし、蒼月いおちゃんに会いたいんです。みなさん、今日はよろしくお願いします」

 

しおらしく頭を下げてお願いするいおに、メンバーは全員、全力でのサポートを約束した。

信良たちの作戦はシンプルだった。通常の出入りから握手会に参加し、全員で列に並び、こちらのいおの番になったら、全員で集めた300枚を超える握手券を渡して、時間を確保する。通常ならそれで1時間以上、いおと話せるはずだ。握手会全体の進行を妨げないために、別室での対応になるかもしれないが、それならそれでかまわない。

そして、いざ、いおといおが一対一になれたら、あとは二人に任せる。と、いうものだった。

 

「信良さんは、いおと一緒にいてくれないんですか?」

 

いおが不安げに、信良に尋ねた。

 

「そうだな、券を分けて、いおちゃんと菅原さんで、半分ずつだして、2人で同時でお願いしよう。いおちゃんも、その方が心強いだろ?」

 

孝義のその意見に異を唱えるものはいなかった。

ここにいるこの女性は、いおちゃんであり、もはやそう呼ぶのを誰も止めない。

どんなやり方にせよ、みんなのところへいおちゃんを連れてきてくれた、信良は、ここにいる仲間たちにとっては、信頼できる友となっていた。

 

(みんな、ありがとう。僕は、いおちゃんがいおちゃんに会うのをちゃんと見届けるよ)

 

外見が分からないように、帽子、マスク、オーバーを着込んだいおを10数人の中年男性で囲んで、一行はAUCの握手会へ出発した。

 

 END

 

☆☆☆☆☆

第三部は以上です。

次回四部で完結する予定です。

お読みいただき、ありがとうございました。

気持ち悪いなー、と思われた方、すみません。

あと一息なので、最後までよろしくお願いします。

 

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