100-36 カルトとカリスマ-1
100-36 カルトとカリスマ-1
時系列的には、誠が年上の霊能者T(100-19~23 霊能者1~5)と出会った直後ぐらいの話である。
当時、誠は自分の人とは違う能力を感じてはいたが、それをどのように生かせばいいのか、そうした能力を自分が持っていることを人に話した方がいいのかも迷っていた。
誠は、幼い頃からある新興宗教の信者だった。
これは誠自身が入信したのではなく、誠の曽祖母の代から、代々血縁者はみな入信していたものだ。
新興宗教とはいっても、とても大きな組織で、学校も持っていれば、幹部に国会議員もいる世界に支部のある巨大組織だった。
子供の頃から会の行事にもよく参加させられた。
誠は自分の力も、きっと会への信仰と関係があるのだろうと、勝手に思っていた。
誠がIに出会ったのは、会の集会ででだった。
Iも会の信徒で、誠よりも二つ年上だった。
Iは大学を卒業した後、就職もせずにフリーターをしていた。
「鈴木くん。俺、海外へ行ってみようと思うんだ。
俺や鈴木くんみたいに生まれた時から会の家で育ってきた人間は、生涯を会の教えに捧げてもいいんじゃないかと思うんだよ。
そうすることで自分の信仰が本物になるっていうかさ。
それにね、あんまり人に言えないんだけど、俺、霊能力があるみたいなんだ。
霊とかみえるし、声もきこえるんだよ。
これって、選ばれてる者の力だろ。
俺はこの力を生かしていきていこうと思う。
俺は、適当に信仰してるやつとは違うんだ」
Iは誠にそう告げた後、会の総本部の試験を受けて合格し、海外の支部へ会の教えを広めに行く青年団の一員になった。
3年間、日本を離れて海外をまわり、信徒としての徳を積んでくるのだ。
誠は、Iの行動力はすごいと思ったが、信仰に人生を捧げるのは、同意できなかった。
青臭いかもしれないが、自分なりの生き方を探して、それをまっとうしてでも、信仰を貫くことはできるはずだと思った。
海外の支部でのIの活躍は、毎月の会誌で目にした。
青年団は髪を五厘刈りの坊主にして、会のジャージを着て毎日、厳しい共同生活を送っているらしかった。
会は新興宗教といっても仏教が母体のため、修行は僧侶と内容は似たような感じだ。
そのうちに誠のところへ海外のIから手紙がきた。
「鈴木くん、元気にしてますか? Iです。
自分はいま、ロシアにます。
こちらでは、会の信徒であることが生きがいになっている会員のみなさんがたくさんいます。
経済滝的には、日本より劣るかも知れませんが、みんな目を輝かせて信仰に生きています。
自分もこうした人たちの人生に、自分の人生を役立たせられて、非常に満足しています。
鈴木くんは、日本での暮らしに満足していますか?
自分たち日本の信徒の若者は、もっと己が恵まれた環境で生活できているのを自覚すべきだと思います。
こうして自分からの手紙が、鈴木くんが信仰や生き方を考えるきっかけになってくれるとうれしいです。
また手紙を書きます。
青年団の期間が終わって、自分が地元の支部へ戻ったら、一緒に支部を盛り上げましょう」
手紙の内容から、Iの会への熱意がますます強くなっていることがうかがわれた。
誠自身は、会の教えにそれほど入れこんではいなかった。
信仰はその人の心の支えにはなるが、信仰が都合良くその人の人生を救ってくれる魔法的なものだとは、まったく思えなかった。
Iからはその後も何通か手紙がきた。
そしてある時きた手紙で、
「鈴木くん。
自分は、青年団としての修行の中で、能力者のステージが上がった気がします。
いままで、書きませんでしたが、自分は、鈴木くんにも、自分と同じような能力が備わっていると感じています。
鈴木くんは、自分の力に気づいていますか?
自分は、こうして離れた海外にいても、鈴木くんの力の波動を感じることができます。
鈴木くんは力の使い方を間違ってはいませんが、それを十分に生かせてはいない。
自分と一緒に修行に励めば、鈴木くんも己の能力を発揮できるようになります。
今度、鈴木くんのところへ幽体で遊びに行きます。
自分が急に鈴木くんの前に現れても、びっくりしないでください。
それは夢や幻ではなく、自分の幽体です。
自分や鈴木くんのような能力者同士なら、離れていても幽体で交流できるのです。
近いうちにお会いしましょう」
誠は、Iの手紙に、ある種の恐怖を感じた。
もともとそういう感覚はあったが、Iは自分とは違うところへいってしまった気がした。
Iがなにをするつもりなのかわからないが、それが、自分とIにとってマイナスにならないのを願った。
誠は心配になって会の支部道場へ行き、支部長に、この手紙の件を相談した。
「Iさんは、なにをする気なんでしょうか?
幽体でくる、とか可能なんですか?」
誠の質問に、年配の支部長は、微笑んだ。
「Iくんはかなり入れ込んでるみたいだね。
会としてはそういう若者がいてくれるのはいれしいな。
しかし、幽体を飛ばすというのは、そう簡単にできることではないよ。
鈴木くんは安心したまえ。
Iくんはロシアで懸命に修行に励んでいる。
そう思っておけば大丈夫だ」
支部長の言葉に誠は、いちおうは納得したが、それでも、完全に安心はできなかった。
ある夜、誠はなかなか寝つけなかった。
気がつくと、体の自由がきかなくなっていた。
金縛り状態だ。
まぶたと眼球だけが動かせた。
そして身動きの取れない体のうえに、重たいなにかかがのしかかってきた。
姿は見えないが、それは人だと思った。
透明な人が、仰向けに寝た誠の上にのしかかってきた。
苦しかった。
胸が圧泊されて息もできない。
「I先輩!!」
ようやく声をだせた誠は、Iを呼んだ。
すると金縛りは解け、誠にのっていた重いものはいなくなった。
誠は、ロシアのIが誠のところへ幽体を飛ばしてきたのだと思った。
それはおそらく失敗して、Iが望んだ形にはならなかったが、とにかく誠のところまで念は届いた。
僕やIさんの力は、自分でも思うようにはコントロールできない得体の知れないものなんだ。
この件で、誠は、これまで以上に力の使用を慎むようになった。
得体の知れない力に振り回されて生きていくのはゴメンだ。
海外へでて3年後、Iは日本に帰ってきて、地元の支部の副支部長に就任した。
END
☆☆☆☆☆
36話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
過去の体験のミックスです。
みなさんにいろんな過去があるようい、僕にも人なみにあれこれあります。
それを誠と一緒に振り返ろうと思います。
特定の団体や人物を誹謗中傷する意図はございませんので、フィクションとして楽しんで頂ければ幸いです。
みなさんのご意見、ご感想、お待ちしてます。