100-53 疑惑
100-53 疑惑
職業が拝み屋だと話すとそれだけで、いろいろなイメージを抱く人がいる。
いかがわしいインチキで、金を儲けようとしている不貞の輩と思われる時もある。
その日、誠は知り合いに飲み会に誘われて出席していた。
古くからの友達が、他のもとに、
「こいつ、鈴木誠。
霊能者なんだ。
テレビにもでたりしてるよ。
普段は、お祓いとか、家相をみたりとかしてるんだ。
小学生の頃からの友達だからさ。
ま、こいつの力はインチキじゃないよ。
なにかそういう相談があったら、誠に聞いてくれれば、教えてくれる。
な、誠」
「どうも、はじめまして。
Nくんとはもう20年以上の付き合いです。
僕で話せることなら、お答えしますんで、なんでも聞いてください」
友達の紹介を受けて、誠は周囲に頭をさげた。
営業活動が目的で来たわけではないが、やはりこうして正直に自分の職業を口にすると、周囲の人にある程度は興味を持たれるのは、仕方がない。
その日の飲み会は、全部で20名弱の人間がいた。
Nは小さな会社をやっていて、仕事の付き合いもあって、なかなか顔が広いのだ。
全員で乾杯して宴がはじまると、誠のところには、何人かの人がきて、
「前世はみえるのか?」とか、「幽霊はみえるのか?」など、こうした場ではよく聞かれる質問をしてきた。
そこらへんは、誠も慣れたもので、いつもの返答をかえし、場を盛り下げることなく、宴に参加していた。
と、誠は、自分への特殊な視線に気づいた。
宴に参加していた、きちんとした、ネクタイ、ワイシャツ、スーツを着た20代くらいの若い男性が、あきらかに、敵意や増悪のこもった目で、誠を見つめている。
それこそ商業柄、人からこうした目でみられることもままあることなので、誠は失礼にならないように気をつけながら、笑みを浮かべて、青年に近づいた。
無視してやりすごすには、場が狭すぎるし、青年の誠への敵意、もしくは増悪は、誰がみてもそれとわかるくらいあからさまだった。
「こんばんは。
お会いすのは、はじめてですよね。
鈴木誠です。
あの、余計なことですけど、もしかして霊能とか、オカルトがお嫌いですか?」
誠が側にくると青年の表情は、ますます険しくなった。
正直、いまにも誠に噛みつかんばかりだ。
はたで様子を眺めていたNが心配になったらしく、誠と若者の間に入ってきた。
「Kくん。
誠をみる顔が鬼みたいになってるよ。
どうしたの?
具合でも悪いの?」
「Nさん、あのう、自分・・・・・・」
若者=Kというらしい、は、誠から視線を外さず、低い声をだした。
「霊能者とか嫌いなんです。
鈴木さんだけでなくて、そういうのは全部、嫌いなんですよ」
「ああ、それはすまないですね」
誠は、反射的に謝っていた。
そういう人もいるとは思う。
Kには、Kの事情があるのだろう。
「Nさん、鈴木さん、自分、母親が霊能者なんですよ。
ずっとそういう人に育てられてきたんです。
自分は、自分の目で見たものしか信じない人間です。
母の話も信じたくないけど、自分の母なんです。
母がまったくでたらめを話して、人をだましているとは思えません。
でも、自分には、母が見えるっていう霊なんて見えないんですよ。
鈴木さんもみえるんですよね?」
「ま、まぁ、みえるものもありますけど」
「Kくん、誠は、きみに悪意はないんだ。
きみも普通にしてればいいじゃないか。
初対面の相手に、こういう態度は、失礼だろ?」
Nにたしなめられても、Kの態度は変わらなかった。
「Nさん、自分、母でさんざん経験してるんで、知ってるんです。
鈴木さんは、こうして向かいあうだけで、自分のことなんかお見通しなんですよね?
普通、そういう人間と話すのってイヤなもんじゃないんですか?
それとも、鈴木さんの能力はニセモノだから、心配しなくていいんですか?」
Kのかたくななな態度に、誠はわけもなく謝りたくなった。
彼の母親は、きっと、すごい能力者なんだろう。
そして、Kの心を見透かし、ある意味、一緒に暮らしていて、プライバシーなどない心境にまで、追い込んだことだろう。
たしかにそういった力のある能力者は実在する。
だが、
「Kさん、僕のはそんなにすごくないんですよ。
ほんとに、僕は、普通の人にケがはえた程度の能力者です」
「誠もそんなに、自分を低く言わなくていいから」
Nがフォローする。
「Nさん。鈴木さんと、トランプしたことありますか?
ババ抜きとか神経衰弱とか、全部、お見通しじゃありませんでしたか?
自分、母にさんざんやられましたよ」
Kの恨みは根が深そうだ。
「自分は、霊能者が人格的に優れているとは思えないんです。
鈴木さんは、人格高潔ですか?
自分の持って生まれた才能で、人を見下している部分はないですか?
自分の母には信者みたいな人たちがいますが、自分からすれば母は傲慢な自尊人の高い、イヤな人間です。
なんでも自分の言う通りにすればうまくいくとカン違いしてる」
「なるほど。
お母さんは、そうしてきみの心を傷つけてきたんだね」
誠は同業他社へのクレームを聞いているような気分になってきた。
Kは、相手は肉親とはいえ、ようは霊能者による、パワーハラスメントを受けたのではないだろうか?
だとしたら、
「ごめんね。
きみを不愉快にさせたのなら、謝るよ」
誠は深く頭を下げた。
本当に申し訳ない気持ちだった。
「よせよ。誠が謝るのはおかしいぞ」
Nが誠の頭をあげさせようとする。
Kはそんな2人の様子を固い表情のまま、見つめていた。
と、
軽快なメロディーが流れ、Kはポケットから、スマホをだした。
「母さん。あ、あ、はい、あ・・・」
スマホを耳にあてて、一瞬にして青ざめた顔になったKは、誠とNの前に、自分のスマホを差し出した。
「鈴木さん、Nさん、母からです。
いまのやりとりを全部みてたんで、お二人に謝りたいそうです」
誠は、ますますKがかわいそうな気持ちになりながら、スマホを受け取った。
END
☆☆☆☆☆
53話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
これも実話がベースです。
マザコン大国日本では、こんなことも起こりうるかもと思います。
みなさんのご意見、ご感想、お待ちしてます。