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『アウトレイジ 最終章』2017年10月7日公開 TOHOシネマズ 浜松で鑑賞

この人生でヤクザ映画を映画館まで見にいくことが、今後あるだろうか? 「アウトレイジ 最終章」を観終わって、最初に思ったのはそれでした。

平日の夕方の回、公開から二週間すぎているせいか、お客さんは少なく、しかも中高年(というか初老)の男性が数人いるだけでした。

北野武の映画は、過去に「BROTHER」と「座頭市」を劇場で観たのだけれど、その時は、賑わっていて、お客さんもいましたから、今回もそれなりには、入っているのかと思っていたのですが、寂しい客の入りでした。

もっとも、ヤクザ映画でしかも続編となると、特に地方では、お客さんが集まりにくくて当然だと思います。

また、いまの三十代以下の世代に対して、北野武がどれくらい集客力があるのか僕は疑問です。たけしの人気を支えているのはやはり、それこそ、ひょうきん族オールナイトニッポンを知っている四十代以上ではないでしょうか。

監督デビュー作の「その男、凶暴につき」が公開された時、僕は高校生でした。封切り当時、個人的にはもっと世間的に盛り上がるかと思っていたのにそれほどでもなく、いくら人気者のたけしが監督、主演でも、やっぱりヤクザ映画(みたいなもの)は客を選ぶんだな、と思いました。

気がつけば、レンタルを借りたりして、たけし映画はリアルタイムでずっと観ています。

国際的に評価されているからどうのでなく、はたからは滑稽にみえる不器用者の無様な生き様と、ひたすら美化されたその死に様を描くのが、僕にとっての、たけし映画です。

この人はこんな風に人に笑われて、こんな風に死にたいんだな、と思いながらいつも観ています。

たけし映画の中では、人を殺す場面もどこか皮肉っぽいユーモアが漂っていて、唯一、主人公(たけしが演じている場合が多い)が死ぬ場面は、詩的に美しかったりする。

今回のアウトレイジ 最終章では、アウトレイジシリーズを通じて、たけしが演じてきたヤクザの大友が自殺します。

しかし、ずっとたけし映画を見続けてきた人間にとっては、それは大して驚くことではありません。

自殺するか、自殺的な行動の後に殺害されるかは別として、たけし映画の中でたけしはよく死ぬのです。

繰り返し自分の死の場面を描く映画監督として、北野武は珍しい存在なのかもしれませんね。

やりたい放題やってパッと死ぬのが一つの美学だと考える人が、タレントとして成功して、大事故も乗り越えて、スクリーンに自分の理想の生き方(死に方)を何度も描き続けている。

失礼かもしれませんが、幸せな人生だな、と思います。

僕の勝手な推測ですが、たけしはその長い芸能生活の中で、反社会的組織と関わったことも何度もあったっと思います。公にできない場面ともいくつも遭遇しているでしょう。アウトレイジはあくまで、映画、フィクションですよ、と断ったうえで、たけしのその経験を世間に告白している作品だと思います。

あのさ、大きなお声では言えないんだけどさ、世の中にはこんな面もあるんだぜ。オイラは知ってるよ。みたいな。

それが面白いかどうかは、観る人次第ですよね。

僕は、たけし映画には、普通の意味での面白さは求めないことにしているので、今回の作品も、皮肉の利いた、苦笑せざるをえない生き方と、鮮烈な死を堪能しました。

それから、たけし映画を観ていて感じるのは、キャストに対する北野武監督の感情が役の大きさや扱いに如実に反映する、という点です。

ある意味、北野武が正直な人なのでしょうが、人として、役者として尊敬できるキャストにはそれにふさわしい役を与えますし、演じる人の器をみて、役、ストーリーを選んでいるのが観ている側に伝わってきます。

今回、日本と大韓民国を股にかける大物フィクサー張大成を演じた金田時男は、芸能人ではなく、北野監督の私的な知り合いで、ただ実際は実業家である金田の普段の振る舞いから、張大成にキャスティングしたというエピソードは、もう有名ですよね。

このようにキャストを監督独自の目でみた人間力で選ぶ、というのは、たけし映画の面白さの一つです。

たけし演じる大友の介錯をする格好になる李役の白竜も、これまでも、たけし映画に出演して重要な役をこなしてきました。

花菱会会長役の大杉漣もそうです。

金田はもちろん、白竜も、大杉漣も芸能界での格など関係なく、あくまで北野監督の個人的な信頼の上に選ばれています。

今回、たけし映画に初出演したピエール滝にしても、今回の活躍がたけしに認められれば、今後はまた違う役柄でたけし映画に出演するかもしれません。

こうしてアウトレイジシリージが完結して、デビュー作からずっと暴力と死を描いてきた北野武監督が、今後、どんな作品を作ってゆくのかが気になります。

これまでも暴力以外の映画も何本も作りましたが、やはり、暴力と死にはこだわりがあるらしく、結局、その集大成ともいうべきアウトレイジシリーズを自身の主演で完成させてしまいました。

はたして、たけし映画は、今後、商業的成功を目指すべきなのか、それとも、日本でのヒットなどは狙わないで、ある種、芸術的な作品を撮ってゆくのでしょうか?

今後もたけし映画の展開に注目したいと思います。

 

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