リップヴァンウィンクルの花嫁 2016年 日本 監督 岩井俊二 第40回 日本アカデミー賞 huluにて鑑賞
岩井俊二の監督作品は、鮮烈すぎるクリアな映像と、明晰すぎる物語で、居心地が悪いです。
でも気になっていつも観てしまうんですが、さすがに今回思ったのは、岩井俊二は90年代には最先端で、0年代には旬な感じがしたけれども、2017年のいま観ると、さすがに時代とはズレてる感じがして、これはこれでようやく観ていて、肩の力を抜いて観れる、というか、素直におもしろがれるようになって、天才性も、超ひらめきも、もう感じないけど、普通におもしろい映画監督になったね、と今作ではじめて思いました。
失礼ですが、これは私としては、賛辞のつもりです、
岩井俊二の映画で普通に楽しめたのは、これがはじめてです。
さて、今作「リップヴァンウィンクルの花嫁」は、別にわかりやすい映画ではありません。
例によって映像はきれいすぎるし、お話も登場人物もいろいろ頭よすぎます。
しかし、これを2017年のいまにみせられても、もう、イヤミじゃないんですよね。時代の変化は偉大です。
主演の黒木華が好きな人、助演の綾乃剛が好きな人は、この映画はみるしかないでしょう。
どちらもすごく上手です。
岩井俊二は、女優、俳優さんから、普通っぽい演技を引き出すのが上手です。
映画のストーリーはざっと紹介しますね。
黒木演じる派遣教師の皆川七海は、SNSで知り合った男性と、ネットで買い物をするような感覚で結婚してしまう。
しかし、仕事を辞めて結婚するも、結婚はすぐに破局し、七海は夫も住むところも失ってしまう。
行き場をなくした七海は、なんでも屋を営む安室 行舛(綾乃剛)にすすめられ、結婚式の代理出席やメイドをすることになる。
そして今度は、主人が不在の屋敷を管理するメイドとして雇われた七海は、里中 真白( Cocco)と奇妙な生活を送ることになる。
ここまで読んで、なんじゃそりゃ、付き合いきれない、と思った方は、「リップヴァンウィンクルの花嫁」は見ない方がいいと思います。
この作品、180分もあるので、合わない人は時間の無駄になるので、手をださない方が得策です。
119分の配信版というのもあるのですが、私はそちらはまだ観てません。
180分の方が、劇場版なので、やはりこちらを観るのが、よいのではないでようか。
いろいろとすごく変な映画なのですけれども、その変さを堪能する作品でもありますので、気になる方は180分間、味わってみてください。
黒木華という女優さんを追いかけるなら、この作品は外せないですね。
間違いなく、彼女のキャリアからは外せない1本です。
作中で、黒木演じる七海が、混乱して、知らない町の中で、泣きながら、「私、どこにいけばいいですか、えっと、えっと、もしもし、もしもし」と泣きじゃくる場面があるのですが、私も今年、名古屋の街で脳の血管が切れて、同じような状態になりました。あの時は、事態の異常さに気づいたコンビニの人が救急車を呼んでくれました。
黒木華の演技は、真に迫っていて上手です。
混乱してぐちゃぐちゃになった人間は、あんな感じになります。
劇中、黒木はあの後、安い宿に泊まります。私はその後、入院しました。
もしかしたら、あなたが経験していたかもしれない奇妙な世界が「リップヴァンウィンクルの花嫁」には広がっています。
この作品についてネットで検索すると、考察やネタバレがあちこちにあって、みなさん、楽しんでるなぁ、と思います。
以前の岩井俊二監督の映画は、ここまで観客を遊ばせる余裕はなかった感じがします。
ある意味、ゆるくなったから、みんなあれこれ言いやすくなって、より深く楽しめるようになったんだと思います。
映画は後半へゆくほど、わけのわからなさを増していきます。
現実離れしたお城めいた屋敷でメイドとして暮らす七海と真白。
なんていうか、これはもう少女マンガですよね。
それも、たぶん、いまの若い子むけではない、ちょっと前の少女マンガな感じです。
七海と真白の共同生活のシーンをかわいいと思えるかどうかが、この作品を好きになれるかどうかの分かれ目のような気がします。
私は、こういうタイプの作品を観ていると、姉や妹のペースでずっとおしゃべりを聞いているような気分になります。
生なましい女子トークではなくて、どこかファンシーな感じの女子のおしゃべりですね。
だから、大人の女性たちが話しているというより、あくまで女の子同士のおしゃべりな感じです。
別に私は平気だけど、40過ぎの男性では、これに三時間付き合うのはなし、という方も多いと思います。
これってある意味、ソフトポルノですもん。
こういうの気持ち悪い、とつぶやく方が男らしい気もします。
ここから大いにネタバレします。
物語の後半、ラスト一時間になった頃に、真白が実は、AV女優で、2人がいる屋敷の借主であることが明かされます。
AV女優の真白が「友達が欲しい」と願った結果、七海がメイドとして雇われました。
体調を崩した真白に寄り添って、七海は泣きます。
「私、この仕事辞めます。こんなお城、引っ越して、もっと自分を大切にしてください」
2人は友情を確かめ合い、ウェディングドレスで記念撮影をしたり、ドライブしたりして、仲良くすごします。
ウェディングドレスの2人がたわむれて、ベットでチュッとかしてイチャつくシーンは、誰得なんだろう、とも思いますが、これもアリとかって言うのだろうか。
私は岩井俊二監督のこうしたいかがわしさが苦手です。だって、おっさんですから。
「あたしが一緒に死んでねって言ったら、死んでくれる?」
「はい」
「ほんとに?」
「うん」
「ばーか。ばーか。ありがと」
「愛してる」
女の子同士で、こんな会話をされた日には、たまりません。
そして末期癌だった真白が亡くなります。
一見、真白と七海は心中したように見えましたが、真白は亡くなり、七海は生きていました。
真白の死体の横で取り乱す七海。
そして真白の葬儀が行われます。集まったのは、バイトで知り合ったニセモノの家族たち。
真白の遺体を焼いて、残り約30分。
残されたAV女優の仲間たちが真白について語ります。
真白は自分の死期を悟っていたのです。
真白の遺骨の前で、彼女の母親は裸になって泣きます。
「こんなの人前で裸なんて、やっぱり恥ずかしいだけだ」
それをみた安室も泣き、七海も泣きます。
映画は、七海が新しいアパートへ引っ越し、そこに安室が挨拶にきて去り、七海が1人、ベランダに出て、思いにふけっているシーンで終わります。
その後、紙の帽子をかぶった七海が数カットあって、エンドロールへ。
どうでしたか、岩井俊二監督作品のつかみどころのなさは伝わりましたか?
180分の怪作、「リップヴァンウィンクルの花嫁」気になった方は、ぜひ、ご覧ください。
映画とは、それを見ている瞬間にしか味わえない空気感を味わうもの、そう考える人には、じゅうぶん、満足していただけるかと思います。