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100-4 「タレント-1」

 

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100-4 「タレント-1」

 

テレビで有名な怪談タレントの地方営業の手伝い。

「ようするに人手が足りないんで、鈴木さん、助けてよ。それに勉強になるでしょ?」

霊能力者の看板をあげてはいるものの、駆け出しの誠は、たしかに収入は少なかった。正直言って、どんな仕事でも断る余裕はない。

地元のイベントプロモーターから声をかけてもらえて、感謝していた。

「僕はなにをすればいいんですか?」

「ごめんね。スタッフ扱いになると思うけど、いや、臨機応変に、現場で求められたことをしてもらえれば。今回、お客さんが1000人近く入る予定だから、仕事はいっぱいあるよ」

「じゃ、イベント整理のアルバイトみたいなもんですね」

誠は勝手にそう納得して、当日、指定された会場へと向った。

地方都市の駅前にある、ちょっとしたホールだ。

「〇〇〇真夏のホラーナイト」

会場とその周辺にはポスターが貼られている。

聞いたところによると、チケットは完売しているらしい。

この当時、怪談LIVEという催しはまだまだ珍しかった。しかも、公演の座長は、TVで有名な男性タレントの〇〇〇だ。

イベント内容はさておいて、とりあえず地方では、〇〇〇のネームバリューだけで、小さなホールくらいは、満員にできる、そんな時代だった。

少し先のことを書くと、こうした単発の怪談イベントが各地で好評をはくし、後に〇〇〇は毎年、怪談の全国ツアーを行うようになる。

さて、誠は会場に集められた当日、日雇いの大勢のスタッフたちと一緒に、まずは会場の設営を手伝うことになった。

手慣れた感じのリーダーたちに従って、ステージの上に各種ライトのついた枠をワイヤーなどで設置していく。

舞台上は二重三重底で、エレベーターで下から仕掛けが上がってきたりするようにする。

1夜限りのお化け屋敷を会場に作っている感じだ。

この頃の怪談LIVEはまだ決まった形がなかったので、ダンサーや地方タレントもきていて、ショーの中で、ダンサーたちが躍ったり、地方タレントと〇〇〇とのトークイベントも用意されていた。

他のスタッフたちと会場の設営をしながら、誠は、ある種のおかしな感じに気づきはじめた。

1000人以上の客が入る、それなりに広い会場、少なくとも、30人はいるスタッフ、そして、まだ、客は入っていない、いまの時点で、スタッフや運営側は、すでになにかを恐れている。

とりあえず、ステージの体裁が整ったところで、ステージ周辺にいるスタッフ全員が集められ、ミーティングがあった。

「お疲れ様です。

みなさん、あのーご存知だと思うんですけど、このインベントはいろいろわけありでした。以前は、ここじゃなくて、もっと町中のF会館でやってたんですけど、事故もありましてね」

スタッフの何割かはすでに事情を知っているらしく、したり顔で頷いている。

「セットが崩れて、足の骨、折れたって」

「まだ、入院してるよ」

ひそひそ声で、何人かがしゃべっている。

「今回はイベント前に一応、お祓いもしてもらってますので、みなさん、くれぐれも気をつけて、安全第一で仕事してください」

 

お祓いって、なんのために?

 

誠は首を傾げた。

タレントの怪談イベントでお祓いとか、ケガ人がでるとか、なんなんだ。

どんな力が働いて禍が起きているんだ?

現場リーダーのところへ、運営側のスーツの姿の男が駆け寄ってきた。

リーダーの耳元でなにかを話している。

「ほんとですか?」

「ああ。原因不明だって」

「マジかよ?」

しばらく2人がやりとりした後、リーダーは皆の方をむき、

「すいません。

いま、連絡がありました。

〇〇〇さんの会場入りが遅れるそうです。

〇〇〇さんの車が突然、動かなくなったそうで、原因不明だそうです。

いま、こちらから迎えの車をだしました。

このまま行けば、開演時間に遅れはないそうです。

みなさん、よろしくお願いします」

車のトラブルでタレントの到着が遅れることになった。

スタッフたちの中には、「またかよー!?」などと言ってる者もいる。

タレントの車トラブルも、はじめてではないらしい。

周囲にいた顔を知っているスタッフをつかまえて、たずねてみた。

「〇〇〇さんのイベントは、いつもこうなんですか?」

「そうなんですよ。〇〇〇さんご自身は、すごく腰の低い、TVでみたまんまの人なんですけど、ただ、自分たちの間では、あの人がらみの仕事はおかしなことが多いんで、「あの人は本物だよ」って、みんな言ってます。

鈴木さんも、なにか感じましたか?」

「感じるというか、まだ、イベントははじまってないけど、ここはもう、普通じゃない雰囲気になっているとは思うよ」

「〇〇〇さんが言ってましたよ。霊は霊を呼ぶし、霊は人が大勢集まるところが好きだって。それにここらへんの地域は、タチの悪い霊が多いらしいです」

スタッフの説明に誠は頷いた。

〇〇〇と同じような言葉を他の霊能力者からも聞いたことがある。

〇〇〇は、予定よりも1時間以上、遅れて、イベントスタッフが運転する車で会場入りした。

「どもどもども、いやーすいませんねぇ」

〇〇〇は、実際にTVでみるように気さくで、腰が低く、アルバイトスタッフの一人一人にまで、深く頭を下げる紳士だった。

〇〇〇についていたマネージャーは、痩せた中年男性で、神経質そうな感じの人物だった。

彼は、ステージにあがり、周囲を見回すと、側にいるスタッフに告げだ。

「きてるよ。きてるよ」

マネージャは、懐から糸が切れた数珠をだして見せた。

「やられた!

ここについた途端に切れたんだ」

さらに、ワイシャッの袖をまくりあげ、

「ほら、これも!いま、急にやられたんだ!」

彼の手首の内側に、鋭い刃物で切られたようなまっすぐな傷がついていた。

傷はまだ新しく血があふれでてくる。

彼はハンカチを傷にあてた。

ステージ上にいたスタッフは、みんな、マネージャーの様子に驚き、気を呑まれていた。

マネージャーの手首から、床に血が落ちた。

これがもし、フェイクなら、この人たちとは全国各地をまわって毎日、こんなことをしてるのか?

これじゃ怪談じゃなくて、怪奇現象の伝道師だ。

これから、怪談や霊能力が世間にもっと認知されていくために、こうしたイベントも〇〇〇さんのようなタレントさんもたしかに必要だろう。でも、この血がもしニセモノであったら、それは・・・?

マネージャー氏のかたわらで、誠は自分でも意外なほど冷やかにそう思った。

誠はテイッシュで床に落ちた血を拭きとった。

開演前のステージで、血で汚れたテッシュを手にしているのは、間違いなく不吉だった。

END

☆☆☆☆☆

4話めは以上です。

この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

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今回は、ほぼ実話です。

私が高校時代の話です。

まだまだ事件は続きます。

よろしくお願いします。

 

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