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100-68 探偵物語-1

100-68 探偵物語-1

 

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人に監視されるのは、あまり気持ちのいいものではない。
 
 監視者がどんなに巧みに姿を隠していても、気づいてしまえば、なんとなくあちらの気配が感じ取れて、落ち着かなくなる。

 鈴木誠は、霊能者という職業柄、人間以外のものにも監視された経験がこれまでもあった。

 例えば、霊魂や生霊などが誠を見張っている、なんて状況だ。

 誠の仕事が相手に恨みを買った結果そうなったこともあるし、こちらに身の覚えがないのに、相手の方が一方的に、つきまとってくることもあった。

 どうやら、今回は後者のようだ。

 その日、誠は、昼間、ビル清掃のアルバイトをしていたのだが、作業中、ずっと視線を感じていた。

 それだでけではなく、誠の後を尾行している人影も目にした。

 相手は、中高年の男性のようだった。

 ちらりと見ただけだが、スーツにコート姿の、体格のいい人物だ。

 まるで、ハードボイルド映画の私立探偵のような感じだった。

 そのような人物に、尾行される心当たりはない。

 バイト中は、物陰から誠の様子をうかがっていた。

 バイトを終え、家へ帰ると、離れた距離からついてきて、誠の自宅まで、そのままきた。

 途中で、こちらから近づいて話をきこうとしたのだが、誠がそちらへ行こうとすると、相手はどこかへ逃げてしまった。

 夜、事務所兼住居にしているアパートで誠は1人ですごしていたのだが、監視者の気配は消えなかった。

 窓から外を眺めると、電柱の脇に隠れながら、こちらを眺めている人影があった。

 警察を呼ぼうかとも思ったのだが、これまで仕事で何度かこの手のトラブルで警察と関わったこともあるし、誠自身が、霊能者という職業柄、警察に怪しげな人物だと思われているのもわかっているので、わざわざここへ呼ぶのも気がひけた。

 にしても、僕を監視してどうするつもりなんだろう?

 半ばあきれながら、誠は自炊して、食事をすまし、シャワーを浴び、すこしTVをみてから、ベットに入った。

 部屋のあかりを消す時に、まだ、外に監視者の気配がしていた。

 まさか、夜襲をかけたりはしないよね?

 しかし、誠の悪い予感は的中した。

 床について小1時間ほど、なかなか寝付けなくて、起きたまま、ただ目を閉じていた誠は、今度は、部屋の出入り口のドアの外に、人の気配を感じた。

 今日ずっと、誠を監視していた気配の持ち主が、いま、この部屋のすぐ前にいる。

 誠との距離は直線にすればほんの数メートルだ。

 カシャカシャとかすかな金属音がした。

 相手はツールを使って、ドアの錠を開けた。

 そして、そっとドアを開く。

 誠は、そのタイミングで、ベットから飛び起きて、部屋のあかりをつけた。

「そこまでです。

 動かないで、ください。

 警察を呼びます」

 有無を言わせず、スマホのカメラのシャッターを切った。

 と、相手はコートの裾をひるがえして、回れ右し、誠の部屋を出て行った。

 誠は、パジャマがわりのスエットスーツのまま、男を追いかけた。

 ここはアパートの3階だ。

 男は階段を駆け下りるしか逃げ道はない。

 外見からして、誠よりも年配の体格のいい男が、誠よりも早く動けるようには思えなかった。

 が、部屋からでると、そこにはすでに男の姿はなかった。

 階段まで廊下を走っていったはずなのに、足音もない。

 あれ。

 誠は周囲を見回したが、男を見つけられなかった。

 スマホで撮影した画像は、人影らしきものは写ってはいたが、ブレてしまっていて、はっきりと顔や服装が分からなかった。

 結局、もやもやした思いを抱えたまま、誠は二度寝することもできずに、朝を迎えた。

 そして翌朝9時。

 誠の部屋のインターフォンが鳴った。

「あの、霊能者の鈴木誠さんですか。御相談したいことがあるのですが、いいでしょうか?」

 朝からの来客に、誠は客をリビングへ通した。

 客は、中年の男性だった。

 が、

「あなた、昨夜、ここへきた人ですよね?」

 あいさつをする前に、思わず誠はつぶやいていた。

 男の気配、身にまとっている雰囲気は、昨日1日、誠を監視し、深夜、この部屋に入ろうとした男のそれと同一だった。

 男は、今日は昨日とは違う、明るい青っぽいスーツを着ていた。

「は?

 いえ、それは、いったい、どういう」

 男はしどろもどろした口調で、首をかしげた。

 誠は昨夜のスマホの画像を男に見せた。

「これ、ブレてますけど、あなたですよね。

 いったい、どういうことなんですか?」

「こ、これは」

 男は、スマホの画像を食い入るように、見つめた。
 
 画像の人物は、暗めの茶色っぽい、コートをはおっている。

「鈴木さん。やはり、あなたのところへきたのは、正解でした。

 この人物は、おそらく私の父です」

「お父さん?」

 誠の言葉に男は頷き、

「父は私立探偵でした。

 すでに亡くなっていますが」

 


 END

☆☆☆☆☆
 
 68話めは以上です。
 
 この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

 探偵物語。

 探偵物の小説、映画が好きな人は多いと思います。

 僕も探偵が登場するお話は好きです。

 鈴木誠、今回は探偵さんと共演です。

 全五回の予定です。よろしくお願いします。
 

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