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100-21 霊能者-3

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100-21 霊能者-3

 

「Tさん、怨霊とか見たとありますか?」

 

「怨霊?」

 

「人を呪い殺したりするようなホラー映画にでてくるようなやつ」

 

誠の問いもTはふんと鼻を鳴らした。

 

「そんなやつほんとにいたら、会った瞬間に俺は終わってるよ。

だから、姿が見えないだけで普通の人とだいたい同じだぜ。

そんな化け物みたいなのは、いわゆる普通の人の霊とはまた別物だ」

 

「別物?」

 

「そう。全然、違う。

俺は、そういうのにも、会ったことあるけどな。

それは、人を殺すとかじゃなかった」

 

Tの説明はよくわからなかったが、誠はまだ気になることがあった。

 

「例えば、人が死ぬ時とかTさんはわかるんですか?」

 

「あー、それね。予言とかじゃなくて、わかる場合もあるよ。

よくオーラとか言うじゃん。あれ、どんな人でもでてるんだけど、死ぬ人はやっぱりそれが弱くなってるよ。

けど、それは病人が弱々しいのと一緒だから」

 

「けど、普通の病気と違って本人がオーラが弱くなってるのに気づいてない場合もあるんですよね」

 

「あるよ」

 

「それをTさんが、教えてあげれば、オーラの輝きを取り戻せるんじゃないんですか」

 

誠としては、せっかくのTの能力を有効利用するアイディアだと思った。

 

「いんや。ムリ」

 

Tはあっさり首を横に振った。

 

「人の生き死には、いろんな運命がからみあって決まってるから、ヨソから口だししてもどうにもならないよ」

 

「なんでそう断言できるんですか」

 

「前に失敗したから」

 

Tは断言した。

 

「命にまつわる運命は、そう簡単には動かせません」

 

「そうなんですか?」

 

「うん」

 

Tは自信満々だ。

 

「あれはまだ、2~3年前の話だ。

俺は大学生だった。

俺も鈴木くんみたいにコンビニの夜勤のバイトをしていたんだ。

俺の場合は、ほとんどコンビニに住んでる感覚だった。

オーナーと仲良くなってさ。

だから、就職もそのまま、本社の人を紹介してもらってここにしたんだ。

あの頃は、大学にいるか、コンビニにいるかだったな。

この店は大きな駐車場がないけど、俺がバイトしてた店は大きな駐車場があったから、夜はトラックが何台も止まって、運ちゃんたちが仮眠してた。

よくくる運ちゃんは、俺に時間になったら、起こしに来てくれとか頼んでさ、寝てたよ。

そんな運ちゃんの1人に中年のおじさんがいた。

その人はとにかく疲れてたんだ。

さっき言ったオーラーがその人のはくすんだ色をしていた。

肉体がどうのでなくて、魂が疲れてたんだな。

俺もあんな状態のオーラの人は他に知らなかったから、心配になってさ、声をかけたり、たまにドリンク剤を差し入れしてあげたりしてた。

でも、あの人、借金とかいろいろあって大変だったみたいで、いつも必死に働いてたよ」

 

「その人、どうなったんですか?」

 

話の先が気になって、誠はつい聞いてしまった。

 

「死んだ、よ」

 

Tは静かに答えた。

 

「俺が発見した。

あの日は、おかしかったんだ。

オヤジさん、オーラがまったくなかった。

でも、いつも通り、缶のトン汁とおにぎりを買って、6時になったら、起こしてくれって言ってトラックへ戻って行った。

俺は、なんぁヘンだん、とは思ったけど、なにもできなかった。

6時になって起こしに行ったんだけど、いくら声をかけても、ドアを叩いても、オヤジさんは起きてこなかった。

そりゃ、そうだ。

オヤジさんは運転席で仮眠中に心不全を起こして死んじまったんだから」

 

「Tさん、どうしたんですか」

 

「オーラがなかったからな、反応がない時点でこれはヤバイと思って、救急車を呼んで、オヤジさんんおトラックの会社にも電話した。

配達にきてる人がコンビにの駐車場で倒れてます、ってな。

会社からはすぐに交代のドライバーがきたよ。

救急車が着いた時、オヤジさんはもう亡くなっていた。

オーラが見えても、なんの役にはたたん」

 

「そのオヤジさんの霊とは話せなかったんですか?」

 

誠は不思議に思った。霊と交流できるなら、そのオヤジさんとも話せるはずだ。

 

「死んだら全員、幽霊になれるわけじゃない。

どんな人がなれるのか、俺にはわからん」

 

「その人の霊とは」

 

「あの人は、霊にならなかったみたいだな」

 

Tは話終えると、誠をまっすぐ見つめた。

 

「鈴木くんのオーラがどんなか知りたいか?

きみの後ろにいる人も見えるけど」

 

「僕のはいいです」

 

気になりはしたが、誠は断っておいた。

なんのかんの言ってもTはやはり感じが悪い。

 

「俺はあのオヤジさんは好きだった。死んで欲しくなかった。

でも、なにもできなかった。

生命ってそんなもんさ」

 

Tがめずらしく人情味のあることを言っている。

 

「あのう、Tさん、僕、さっきTさんが話しかけた、化け物みたいなやつの話を聞きたいんですけど、教えてくれませんか?」

 

誠のリクエストにTは嬉しそうに笑った。

 

「いいか、それは本当に信じられない話だぞ。

それでも聞きたいか」

 

「はい。聞きたいです。

それに、僕は、信じますよ」

 

誠は数時間後に、その、信じられない話をTから聞く。

 

END

☆☆☆☆☆

21話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
これまでのブログ同様、ご意見、ご感想、お待ちしてます。

 

本日、12月30日を持って、本年度の本気で本のブログ更新は終了です。

新年は、1月4日から開始する予定です。

ほんの2ヶ月ほどですが、ブログをはじめて怪談を書いてよかったです。

脳出血のいいリハビリになっています。

読んでくださる皆様、コメントをくださる皆様、皆様から頂くエネルギーで僕はだいぶ元気になりました。 

この後、怪談は100話まで書きますし、映画評も、普通の日記もやていきます。

それでは、

本年もお世話になりました。

新年もよろしくお願いします。

皆さま、良いお年を。

失礼します。

ブログ記事への感想・ご意見は、お気軽にコメント蘭へどうぞ。みなさんの声、お待ちしてます。 広告