100-22 霊能者-4
100-22 霊能者-4
Tと過ごした一夜は、次から次へと話題がでてきて、話が尽きなかった。
もともと、心霊や怪奇現象に興味があった誠は、Tに気になることをどんどん質問した。
Tは、誠の質問にけっこう軽い感じで答えていたが、さすがに夜も更けてくると疲れたのか、返事をするペースが遅くなってきた。そして、
「じゃあさ、鈴木くんは、本物、見たことあるの?」
「本物って、本物の幽霊ですか?」
「ああ。本物」
Tが自信ありげに頷く。
「僕は、それは・・・
自分では見たかな、って思ったものは、ありますけど、本物だって言い切る自信はないです」
これまで誠は何度か奇妙な経験をして、不思議物なものを目にしたこともあったが、それが本物だと言い切る自信はない。
「Tさんは、言い切れるんですか?」
反対に聞き返した。
「ああ。言い切れるよ」
「どうしてです?霊能力があるからですか?」
「それもあるけど、やっぱり集まるとこには、集まるんだよな」
Tがまた、わけのわからないことを口にする。
「俺は昔、N県に住んでたんだ。
古い立派なお寺がけっこうあちこちにあって、よく友達と遊びに行ったりしてた。
子供の頃の俺が、本物をまとめてたくさん見たのは、その寺でだった。
あの時、なんでだったかは忘れたけど、俺は友達と一緒に婆ちゃんに連れられて、近所の大きな寺へ行ったんだ。
それで婆ちゃんが住職さんと話しがあるって奥へ行っちゃって、俺は、友達と境内で遊んでた。
そしたら、本堂の外側の渡り廊下みたいなところに、それが、まとめて置いてあったんだ」
「なにがあったんです?」
「写真だ。
絵葉書みたいなきれいな写真。
山の風景とかいろんなのが、何十枚もあった。
そこそこきれいだったから、友達が持って帰るって言いだして、俺たちは、それを持って俺の家に帰ってきたんだ。
で、問題はそこからだ。
俺の家でみんなで、あらためてその写真を眺めていたら、俺たちは、写真がおかしいのに気づいた。
よく見て、初めてわかったんだけど、その写真には、どれにでも必ず、本当は写るはずのないヘンなものが写ってたんだ」
「ヘンなもの?」
「人魂や生首、昔の侍が写ってるのもあったよ。
普通に山の風景だなぁ、と思って、むきをかえてよくよく見たら、木々の間に女が立ってたりさ。
そのうち、誰かが、いいださした。
これ、心霊写真じゃないか、って」
「心霊写真? あの、TVの番組なんかにでてくるやつですか?」
「それそれ。どう見てもそれだったんだよ。
それがたくさん」
数十名の心霊写真を想像して、誠は身震いした。
有名な寺にはそういうものがもちこまれるのか、と感心もした。
「どうしたんですか、その写真。お寺に返しにいったんですか?」
「いや、まず、燃やした」
Tはいたずらっぽく言う。
「気味悪かったから、灰皿において、ライターで火をつけて燃やした」
「バチが当たりませんか?」
「大丈夫だと思うよ。みんなで燃やした。ああいうのは燃やしたりして消してしまった方がいいんだよ。
燃やしたんだけど、
けど。
それでも、残ったやつがあって。
その1枚だけは、何回燃やしても、燃えないんだ。
川だか、滝の水の流れが写ってて、よく見ると、そこに人の顔がたくさん写ってるんだよ。
それこそ、何十人も、顔だけあって、すごく気味が悪い写真。
それがどうしても燃えないんだ。
だんだん、俺たちも怖くなってきて、その写真だけは、婆ちゃんに言って、さっきのお寺へ戻すことにしたんだ。
まず、婆ちゃんがお寺様に電話して、わけを話したら、お寺様も、じゃあ、持ってきなさいって言ってくれて、俺たちも婆ちゃんと一緒に返しに行った」
Tは紙にペンで、その心霊写真を簡単にかいてみせた。
一面に急流のような水の流れがあって、その中にぽつぽつと泡のように、人の顔がいくつも浮かんでいた。
「これ、なんなんですか?」
「わからん。ただ、あの、写真を返しにいったら、お寺様に、ここには、こういうものがたくさん集まってくるから、勝手に持ち出しちゃいけないって、注意されたよ。
本当に怖いものは、寺の奥にしまってあって、表にでてくることはない、って言ってた」
「お祓いするんじゃないんですか?」
「しない。
それは俺も後で知ったけど、本当にヤバイやつはもうお祓いしたりはしない。
ただ、お寺でずっと祀つってある。仏様といっしょだ」
「つまり、Tさんたちが見つけたのは、誰かが、お寺に置きにきた心霊写真だったってことですか?」
「たぶんな。
お寺まで持ってきて、そこに置いて帰ってんだろうな」
Tの話は辻褄はあっている気がした。
心霊や怪異の手におえないものは、やはり人は神仏に頼るのだろうか?
そうしたくなる気持ちはわからないでもない。
「あのー、その心霊写真って全部、本物でしたか?」
「ああ。みてると、すごい気持ち悪くなったよ。
あれは、本当は写っちゃいけないものだから、気持ち悪いんだと思うな。
実際はそこにいちゃいけないものが、そこに存在する時の異物感って、わかるかな?
ああいうのは、それがすごいんだ。
例えば、つくりものの時代劇の中に本物の侍がいたら、浮くと思わないか?」
「浮くでしょうね」
「そういうことだよ。
本物の怪異は、どれもここにいてはいけないものだから、だいたいすごく浮いてる。
あの写真もそうだったけど、俺が小学校三年生の時に出会ったのは、本当にありえないやつだった。
あの頃、俺はまだN県に住んでた。
夏休みだった。
一緒にいた友達とは、いまでも会うたびに、あの日の話をする。
俺たちは、あれを見た。あれは現実だった、って確認するんだ。
鈴木くんは、俺の話を信じてくれるんだよな?」
「はい。
もう、さっきから鳥肌が立ちっぱなしなんですよ。
Tさんは、僕になんの話をするつもりなんです」
Tにしつこいくらいに念を押されて、誠はきっぱりと返事をした。
信じることが、その本物の怪異を知るための条件なら、迷う気持ちは微塵もなかった。
END
☆☆☆☆☆
22話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
しばらく続いている霊能者は、モデルのいる実話です。
大学時代、僕がTさんのモデルさんと過ごした時に聞いた話です。
自らを霊能者だと名乗って、えんえんと実話怪談を話す人って、それだけで怪しいですよね。
でも、実際のTさんの語りにはリアリティがありましたよ。
ふんふんと聞いてしまう僕が甘いのでしょうか。
今回はここで失礼します。
これまでのブログ同様、ご意見、ご感想、お待ちしてます。