耳を疑う言葉 100-2
こんにちは。
今日、外を歩いていたら、学生服姿の高校生?男子が数人並んで自転車で走ってゆくのと、すれ違いました。
彼らと、すれ違いざまに、私の耳に飛び込んできたのは、
「だから、よきゅーんがね」
という言葉でした。
よきゅーん!?
いま、あの子、よきゅーんって言ったよな?
私は足をとめ、よきゅーんと言った彼を目で追いました。
ごくごく普通のメガネをした男子高生です。
彼は、周囲の仲間たちと、よきゅーんがどうの、こうの、と、話しています。
よきゅーん、といえば、以前、このブログにも書いたように、私が応援しているタレントの乾曜子さんの愛称です。
まさか、街中で普通に高校生たちの会話の中で、よきゅーんの名前を聞く日がくるとは。
私は衝撃を受けました。
地上波のTVにはほとんど出ていないけれど、YOUTUBEでゴージャスと共演してるから、高校生には有名なのかな。
私がぼぅっとしている間に彼らは行ってしまいました。
10年以上、よきゅーんを応援しているけれど、こんな経験ははじめてでした。
なんだか、うれしかったです。
さて、今回の怪談は、我らが、主人公、鈴木誠が、耳を疑う話です。
誠はいったい、どんな言葉を聞いたのでしょうか?
では、どうぞ。
100-2 「耳を疑う言葉」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
番組の収録が終わり、誠が周囲にいる出演者、スタッフたちに頭を下げて、スタジオを出た。
TVの心霊番組に出演して、怪談を一つ披露したのだ。
今回、話したのは、誠自身が以前に経験した体験談だった。
引っ越したばかりのワンルームマンショで、夜中に怪異にあった話である。
誠は人に心霊談を話すときに、まず、この話からはじめることが多い、誠にとっては名刺代わりの怪談だ。
「鈴木さん。お話、上手ですね」
控室にむかう廊下で、スタッフに声をかけられた。
お世辞だろうが、褒められるのは、まぁ、うれしい。
「そうですか?あんまり、怖くなくてすみません」
「いや、リアリティがあっていいですよ。本当のことなんですよね?」
「自分の体験です」
「それは大変だ。これからもよろしくお願いしますよ」
「お願いします」
とりあえず、深く頭を下げた。
と、三味線の音がした。
三味線ではないかもしれないが、和の弦楽器の音だ。
誠は周囲を見回した。
あたりに三味線を弾いている者などいない。
でも、ここはTV局だ。この建物のどこかで、曲が使われているのだろう。
霊能力者だからか、誠にはタレントさんたちとは別の個室の控室が与えられていた。
控室に戻ると、誰かが、ドアをノックする。
「鈴木さん。ちょっといいかな?」
尋ねてきたのは、この地方局の番組にもたまに顔をだす、霊能力者のAだった。
Aは元僧侶のふれ込みで、キー局の番組にも出演したりしている、40代くらいの男だ。
これまで面識はなかったが、新人、霊能力者の誠としては、業界の先輩、ということになるのかもしれない。
「どうぞ。お入りください」
「ああ。どうも。きみは1人なの?マネージャーさんとか、いないの?」
「いません。僕、TVにもほとんどでたことなくて、実際、ただの町の拝み屋なんですよ」
「ほう。拝み屋さんね」
誠がすすめると、Aは誠のむかいの席に腰をおろした。
「こんなこと聞くのは、失礼だけれども、きみはなにができるの?」
「ああ。そのう、見えたり、聞こえたりですよ。
子供の頃からできたんです。
そうしたらそのうち話もできるようになって、相手の望むこともわかったりして、それをしてる、というか」
「なるほど。
危ないな」
Aの鋭い声に、思わず誠は眉をひそめた。
「危ない、ですか?」
「ああ。危険だね」
「どういう意味ですか?」
誠にはAの真意が掴めなかった。
「きみに悪意はないんだろうが、霊を利用するものは霊に滅ぼされる。
それは不変の掟だよ」
「別に僕は霊を利用したりは・・・」
「そのつもりはなくても、霊のおかげてお金をもらい、有名になれた。
これらは霊のおかげだろう」
「おかげって、言われても」
首を傾げる誠をAは睨んだ。
「きみは霊たちから恩を受けてるんだ。それを忘れてはならない。一度、恩を受けたことは今後、永遠に消えない。わかるだろ?」
「そんな、恩とか、」
しゃべりかけた誠の唇をAは、人差し指で押さえた。
「霊をうやまいなさい。謙虚であれ」
ほんの数分の会話だった。
それだけ言うと、Aは去っていった。
Aが去った後、誠は疲れをおぼえて、ソファーに横になった。
じゃんしゃんしゃん。
まぶたを閉じていると。また三味線の音が聞こえてきた。
下からする音だ。
下の階のスタジオで時代劇の収録でもしてるんだろうか、この三味線が似合う場面は、和式の座敷での宴会だ。
芸者さんがたくさんいるような。
しゃんしゃんしゃん。
音に導かれて場面がイメージできた。
刀を腰にした、お侍さんがたくさんいる。杯を手にした宴だ。
誠は耳に意識を集中した。
芸者と侍たちの声も聞こえてくる。
三味線。和太鼓。琴。鼓。尺八。
はっきりと言葉は聞き取れない、でも、なにかを話している。
「おまえを、殺してやるぞ」
急に鮮明に聞こえた。
男の声だ。
まるで耳元でささたかれたような気がした。
誠は飛び起きて、控室をでた。廊下にいた局のスタッフをつかまえて尋ねる。
「いま、下の階で時代劇の収録をしてるんですか?」
「いえ。現在は、そのようなことは行っておりません。どうかされましたか?」
「あっ、あの」
いつの間にか誠の横にはAが立っていた。
「ほらほら慌てないで。簡単な御挨拶だよ。気にしすぎない。いいね?」
「は、はい」
「お楽しみはこれからだよ。鈴木誠せんせい」
「すみません」
誠は、自分がなぜ、Aに謝ったのか、わからなかった。
END
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2話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
これまでのブログ同様、ご意見、ご感想、お待ちしてます。
今日も楽しいですね。