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100-74 早九字-1

 

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100-74 早九字-1

 

Kは、怖い話が好きだった。

どちらかといえば引っ込み思案で、ややいじめられっこだったが、怖い話が好きでいろいろ知っていたので、その点についてだけは、学校の友達にも一目置かれていた。

中学生になってもそれは変わらなかった。

中学になってK自身がそれまでと変わったところは、1人で心霊スポットめぐりをするようになったところだ。

自殺者が飛び降りた鉄橋。

首吊り死体が発見された山の中。

幽霊がでるとの噂がある廃墟。

Kは1人で そういう場所へ行った。

別に怖くはなかった。

実話怪談めいた怖い話は同居している父方の祖父からよく聞いていたし、家にはそういうマンガもたくさんあったので、Kはマンガを読んで、悪い霊から身を守るために、早九字を覚えた。

口にするだけでなく、漢字も書けるし、指で印も切れる。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」

家でも学校でも、人のいないところで何度も練習した。

早九字は護身法だ。

心霊スポットで、霊的な危険に陥っても、早九字の力で、脱出できる。

Kの心の中のそんな自信は、実践しないままだんだんと強く大きなものになっていった。

そんなある日、Kは、クラスメイトたちから、心霊スポット探検に誘われた。

以前、すでに1人で行っていた場所だったが、K自身、ここは危険だと感じていた場所だ。

それは、放置され廃墟となっているリゾートマンションだった。

昔、バブル期に建設されたそのマンションは、いまや住むものもなく、浜辺にある地元では評判のお化け屋敷となっている。

マンション内で身元不明で発見された女性の焼死体。

その女性の霊が、焼けただれた姿のまま、昼夜を問わず、館内を徘徊しているという。

実際、雑誌やTVでも心霊スポットとして紹介されている物件なのだ。

あそこはなぁ。

たしかにヘンな気配があるんだよな。

K自身が訪れた時も、昼間なのにも関わらず薄暗いマンション内は、薄気味悪く、誰かがマンション内を歩きまわっている気配がした。

気のせいだと思うけど、なんかいるかもしれない。

Kとしては、再訪したくはなかったが、友達の手前、霊を怖がったりしている姿は見せたくなかった。

「いいよ。一緒に行こう」

全然平気な顔をして、Kはクラスメイトたちに頷いた。

「でもさ、あそこ、マジでヤバいんだろ?俺たちだけじゃ危なくないか?」

「そうだな。鈴木先生に来てもらおうか。あの人、霊能者なんだろ?」

鈴木先生とは、非常勤講師として、生徒のカウンセラーやたまに国語の授業をしたりする鈴木誠のことだ。

誠は、普段は、市内で霊能者として事務所を開いている。

ここの中学のOBで、先生方も昔から知っている人が多く、ユニークな人材として、講師に招かれている。 

20代後半くらいのこれといった特徴のない青年だ。

「鈴木先生じゃ、頼りにならないよ」

「でも、いないよりマシだろ?たぶん、タダだし」

「そうだよな、タダだし」

結局、タダだからということで、Kたちは誠に頼んで一緒に廃マンションへ来てもらうことにした。

誠は、生徒たちにお願いされると、眉をひそめて、

「あそこは、僕は、オススメしないけどなぁ。

 でも、みんなで昼間に散歩へ行くだけなら、ま、大丈夫かな」

誠を連れてKたち5人は、廃マンションへ出かけた。

マンションは、浜辺にあり、いまでは周囲の木や雑草がしげって、ジャングルの中にあるような恰好になっていた。

10数階はある建物が三棟、渡り廊下でつながって立っている。

Kたちは、1階の何者かに壊されたエントランスから棟内へ入った。

もちろん、エレベーターは動かないので、階段で上へあがった。

Kは自分から先頭を歩いて行った。誠が隣りにいる。

「階段や床が腐ってないか、気をつけて」

誠のアドバイスに適当に頷いて足を進めた。

マンション内はやはり暗かった。

Kは足を進めながら、それに気づいた。

誰かが、Kたちの後ろをついてきている!!

足音はたしかに聞こえた。

誠とKたち5人の後を、誰かが、歩いている。

ペタペタと軽めな足音がする。

「みんな、止まって」

しばらく黙って歩いていたKは足をとめた。

「ほら、耳をすまして。聞こえるだろう?」

 

ペタ。ペタ。ペタ。

 

遠く離れた場所から、それは聞こえた。

 

「うわっ!?なんだこれ、きみわりぃ~」

学生たちが騒ぎはじめる。

誠は口を閉じて、音が聞こえてくる方をじっと見つめている。

「先生、これは?」

「さぁ」

Kが尋ねると誠は首を横に振った。

「悪霊ですよ。除霊しましょう」

「は?」

「は? じゃないですよ。

除霊しないと危険じゃないですか。

先生ができないなら、オレが行きます」

「おい、きみ、」

止めようとした誠の手を振り払って、Kは足音がする方へ駈けだした。

Kにつられて生徒たちも走りだす。

Kはそのまま全力で走った。

オレが早九字で除霊してやる!!

そして、数十秒、走ったKの前には、マンションの壁にまるで人影のような形の影が現れていた。

さっき通った時には、こんなものはなかった。

やはり、怪異が起こっている。

Kは影の前に立ち、指を組んで印を作り、大声で早九字を唱えた。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」

Kが早九字を唱えると、掻き消すように影は消えてしまった。

「おおっ!!Kすげぇ~!!カッコイイ!やったじゃん!!」

遅れてついてきた学生たちがKの活躍に歓声をあげた。

Kは友達たちにVサインをしてみせた。

が、みなよりも後に歩いてきた誠が、KのVサインをみて、何度も首を横に振った。

「なにをしてるんだ」

学校では見せない厳しい表情、口調だった。

Kは誠に怒気と、恐怖を感じた。

怒られるのが怖った。

とっさにKは、

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」

今度は誠にむかって印を組み、早九字を唱えていた。

Kの早九字に誠の体が後方へ吹っ飛んだ。

 

END

 

☆☆☆☆☆
 
 74話めは以上です。

 まじめな仏教系の学校で学んだ人に、いたずらで印を組むと本気で怒られます。

 僕にはそんな経験があります。
 
 この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

 

 

 みなさんのご意見、ご感想、お待ちしてます。

 

最後に、わたくし、長女より。

 

へばってる割に、こういうのを書く元気があるなら、大丈夫やろ。

まったく、やはり好かんです、コヤツは。

 

 

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