100-52 競争
100-52 競争
「霊がみえたりする才能って遺伝するのかしら」
誠は近所に住むOさんに、何気なくたずねられた。
いわゆるご近所さんなので、朝、ゴミを置きに行くときに、あったりするのだ。
Oさんには双子の娘さんがいる。
Oさんが言うには、ウチの娘たちには能力があるらしい。
「私も子供の頃は、おかしなおものがみえた気がするの。
いまはもう、さっぱりだけどね。
あの子たちの話を聞いていると、自分の子供の頃を思い出して、ああ、この子たちのこれって、私の遺伝だなぁ、って」
「なるほど、僕のは両親とは全然関係なったですけどね」
霊能者の看板をだし、拝み屋として営業している誠に対し、Oさんは気さくに話しかけてくるので、誠もOさんと会うと、道端で軽く世間話をしたりする。
「鈴木さん、今度一度、うちの子たちをみてくれない?」
「AちゃんとYちゃんですよね。
どうかしたんですか?」
「だから、あの子たち、あなたみたいな力があるらしいんだけど・・・・・・」
Oが言葉を濁す。
実際、霊能力があるが故に、人とうまく付き合えなかったりする人も、誠に過去に何人もみてきている。
もし、自分が小学校低学年の双子の姉妹の役に立てるのなら、誠は、会ってみようと思った。
「あのね、うちの子たち、最近は、私に警戒して、私やお父さん、学校の先生、友達の前じゃ、力の話をしないの。
でも、私には、あの子たちに力があるのはわかるの。
鈴木さん。
あの子たちがいま、どんな感じで自分の力と付き合っているのか、聞いてみてくれない?」
「了解です。
話してみますよ」
というわけで、日曜日の午後、誠は少女2人と、公園ですごすことになった。
AちゃんもYちゃんも、それこそ生まれた時から誠を知っている。
今日も誠の前ではいつもの2人と変わらず、公園の遊具などで、きゃっきゃっと遊そびはじめた。
こうしていると、普通の同年代の少女たちと、どこにも違いはなかった。
誠も、2人の様子を眺めているだけで幸せな気分になってしまう。
「ねーねー、鈴木さん、一緒に遊ぼう!」
「こっちきてよ」
2人に呼ばれ、誠も遊具に近づいた。
並んでブランコにのった双子の背中を押してあげる。
「あれ、はやい」
「こっちの方がはいよ」
「いや、絶対あっち」
「あー、あれはすぐだよ」
「おおおー、そうだね、あれはすぐかも」
「ね、鈴木さん?」
「ね?」
急に2人に話を振られて、誠は首を傾げた。
「なんの話?」
「だから、どれがはやいかってこと」
「だよね」
誠は双子の会話の意味がわからなかった。
2人はブランコから公演にいる人たちを眺めて、はやいのどうのと言っている。
「鈴木さん。あの人、見ててよ」
「ほら、もうすぐだよ」
Aが指さした中年男性が、公園を出ていった。
ゆっくりした足取りで、道路を渡って、
と、
男性が横断歩道のなかほどまできたところで、急スポードで軽トラックが突っ込んできた。
男性をはねて、トラックはそのまま逃走した。
「ひき逃げだ!!」
誠が声をあげた。
しかし双子は、交通事故の現場を目撃したというのに、慌てた様子はなかった。
「あーあ。死んじゃった」
「やっぱり早かったね」
「うん」
「うん」
ブランコにのったまま、2人で頷きあっている。
「きみたち、いま、事故が起きるのが、わかってたの?」
誠の問いに2人は、うんとこたえた。
「きみらは未来がみえるの?」
今度はうんうんと、首を横に振って、合唱した。
「僕もきみらの仲間なんだ。
へんなものがみえたり、声が聞こえたりする。
きみらになにがみえるのか、教えてくれないかな?
僕は、きみらの先輩だから、きみらにしちゃいけないことを教えてあげられるかもしれない」
「しちゃいけないことって?」
「しちゃいけないって?」
2人は顔を見合わせて、クスクス笑いだした。
そして、同時に、うん、と頷いてから。
「あたしたち、人が死ぬのがわかるの」
「もうすぐ、死ぬ人の顔がみえなくなるの」
「へぇ」
誠は感心した。
そういう能力もあるのか。
「なんかねぇ、だんだん薄くなってて、最後は、首から上は消えてみえなくなって、そうなるとすぐ死んじゃう」
「さっきの人もそう。
もう顔が見えなかったから、死ぬのがわかったよ」
双子は無邪気に言う。
この能力を本人の力でコントロールできるのなら、使わない方がいいと、誠は思った。
人の死を予言できる力は、幼い少女の人生のプラスにはならないだろう。
「たまにね、2人で競争するの。
どっちが先に死ぬ人をみつけられるか、くらべるんだ」
「いまの人、あたしが先にみつけたよ」
「なるほど」
誠はわざとらしく大げさに、手の平をぱんと叩いた。
「この力を使うと、きみらは早く死ぬよ」
「えー!!!!!」
「えー!!!!!」
誠の言葉に2人は叫んだ。
「ほんとだよ。2人とも、僕が長生きできると、思う?」
誠にきかれ、2人は誠の顔をじっと見つめた。
互いに耳元でささやきあう。
そして双子は、揃って首を横に振った。
どうやら誠は長い気できないらしい。
まぁ、それはいまはどうでもよかった。
「だからね、霊能力とか、きみらの力とかは普通の人にはない特別な力だろ?
だから、それを使う人は、心も体も疲れて、早く死んじゃうんだ。
こういう力は使わない方がいい。
いいかい、使っちゃだめだよ。
こんなに使ってたら、子供のうちに死んじゃうよ。
そんなのイヤだろ。
わかるかい?」
2人がおとなしくこっくりと頷いたので、誠はさすがに怖くなった。
いまの言葉がこんなに説得力を持つなんて、彼女たちにみえた僕はどれだけ短命なんだろう?
END
☆☆☆☆☆
52話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
少し実話です。
寿命がみえるという人がいます。
本当に、亡くなる寸前の人の顔は消えているんだそうです。
そんな能力、なくてよかったです。
みなさんのご意見、ご感想、お待ちしてます。