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100-47 夜這い

100-47 夜這い

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誠は地域の介護施設に、ボランティアとして参加している。

介護士として、施設にいる老人たちの食事、排泄、入浴を手伝ったりするのが、主な仕事だ。

なのだが、最近は人手不足で正規職員ではない、ボランティアの誠にも夜勤のシフトに入って欲しいと施設からお願いされた。

ボランティアといっても、さすがに夜勤の勤務には謝礼がでる。

それが目当てではなかったが、誠は、職員から、こっそりと頼まれた。

「鈴木さんには、夜来てもらって、本職の方で活躍して欲しいから、ぜひ、きてください。少ないですが、謝礼もでますんで」

「本職の方って、どういう意味ですか?」

職員は黙って手のひらを合わせて拝むフリをした。

「出るんですか?」

誠が聞くと、職員は頷いた。

職員は誰もみていないが、入所者たちからうったえがあがっているらしい。

「鈴木さん、とりあえず一晩、確かめてみてください」

断る理由もないので、誠は夜勤を引き受けた。

夜勤初体験となった夜、入所者たちが、就寝すると誠は他のスタッフと交代で、施設内の見回りを行った。

眠っているものの邪魔にならないように、足音をおさえて所内を歩いた。

部屋内に入り、それぞれのベッドに異常がないか、確認をする。

「鈴木さん」

とあるベットの横で声をかけられた。

高齢の男性入所者が、ベットから手をのばし、誠を呼んでいる。

「どうかしましたか?」

「鈴木さん、しばらくここにいて、聞いててくれ。

あれが聞こえるから」

「あれ?」

「あれは、あれだよ。

聞いてもらえばわかる」

「はぁ」

とりあえず、入所者のお願いを無視するわけにもいかないので、誠は床に膝をついて、待つことにした。

男性の6人部屋には、ベッドが規則正しく並び、深夜の静寂に包まれている。

2、3分も待っただろうか?

誠の耳にそれが聞こえてきた。

厚いカーテンで分けられた隣のベットから、男性の声がした。

小さな声がはっきり聞こえた。

「そこ、そこにまたがってくれ。

そう。そんな感じ」

誰かと話している。

人の気配もした。

1人でなく、ベットの上に2人はいる感じだ。

ん。

くっ。

押し殺したうめき声。

これは男性ではなく女性のもだった。

当然ながら、施設の部屋は、男女分かれているので、ここに女性がいるはずはない。

うっうっうっ。

しかし、隣からは人が動いている気配とその声がしている。

「な、聞こえるだろ?」

誠をここに呼んだ入所者が、ささやく。

「一晩中、やっとるぜ」

「僕、ちょっと見てきます」

誠は断って、隣のベットの様子を見に行った。

それでもいちおう大きな音をたてないように気をつけて、隣のベットの方へ移動する。

ベットが1つと、布団としたで横になっている男性入所者が1人。

それだけだった。

高齢の男性が、1人で布団の中で身をくねらせている。

まぶたを閉じて、まるで、夢にうなされているようだ。

「あの、どうかしたんですか?」

誠が声をかけると、彼は動きをとめ、目を開けて、こちらを見た。

「あー」

残念そうにため息をひとつ。

「あんたが来たんで、消えてしまった」

「消えた? なんの話です?」

「あんたには、なにも見えんかったのか。オレのとこにいまいただろう?」

「誰がいたんです?なにも見えませんでしたよ」

「はぁーいい女だぞ。あれは。明日、きてくれるかな」

入所者は残念そうに首を横に振る。

深夜の出来事なので、また夜が明けたら話を聞くことにして、誠は詰所へ戻った。

 

翌朝、昨夜の入所者に話を聞くと、

「この施設には、女の幽霊がでるんだ。

それはお気に入りを見つけると、そいつのところへ夜這いをかけてくれる。

これは、ずっと前からで、いろんな入所者が経験しとるはずだ。

気まぐれ女なんで、いつどこにでるかはわからない。

言葉は話さない。

きて、それをするだけ。

昨日、途中で消えちまったから、もうオレのところへこないかもしれない。

ただ、なにも悪いことはしない幽霊なので、このままにしておいて欲しい」

とのことだった。

にわかには信じがたい話だが、誠も女の喘ぎ声を聞いたし、気配は感じた。

このまま放置しておくのもなんなので、施設の職員に報告して、その日は帰った。

余命がそんなにない、老人たちに春をプレゼントする女性の幽霊。

体験した入所者によると、若い、20代の日本人女性で、いつも服は着ておらず、肌でベットの中にあらわれ、消えていくという。

施設から誠に電話があった。

今回の報告をもとに調べたところ、男性入所者のほとんどの者はその幽霊の噂を知っていたが、自分が体験したかどうかは、ほとんどの者が話したがらなかった。

そして、反対に、女性入所者は幽霊の噂を知らず、また知っていても信じていなかった。

その幽霊は、男性入所者のところにだけでるらしく、入所者や施設の害になるようなことはしない。

よって、施設と入所者の総意としては、このままにしておいて欲しい、とのことだった。

「本当にそれでいいんですか?」

「はい。いまのところ別に害はありませんから」

「そちらがそうおっしゃられるなら、僕はなにもしませんが」

「もし今後、あれを駆除するような事態になった場合は、鈴木さんに相談するかと思いますので、その際はよろしくお願いします。

それから、問題の性質が性質ですので、この件に関しては他言無用でお願いいたします」

「わかりました」

いまでも誠は、そも施設のボランティアを続けている。

夜勤もたまにするが、あれから彼女にはあっていない。

ただ、たまに深夜の施設で、彼女の喘ぎ声がきこえたような気がする時があり、なんとなく恥ずかしい気分になる。

 

 END

 

☆☆☆☆☆

47話めは以上です。

 この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

Hな話と怪談は愛称がよくて、よくセットになっていたりします。

僕は、基本、Hな話が苦手です。

苦手もなにも、恥ずかしいじゃないですか。

 

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