100-54 トンネル
100-54 トンネル
そのトンネルにまつわる噂はたくさんある。
幽霊がでると噂されている、そのトンネルは旧トンネルであり、現在はほとんど使われていない。(これは事実である)
旧トンネルの脇に、いつ建てられたのかもわからない古い木造の小屋がある。(これも事実)
この小屋には、幽霊がでる。(これは噂)
トンネルを抜けて小屋まで行って、さらに小屋に一度入ってからでて、トンネルを引き返すと、アレがついてくる。
アレはなにか重い鎖のようなものを引きずっている。
アレは人の後ろを少し離れて、ゆっくり、ゆっくり、ついてくる。
時にアレは、すごく早く動く時がある。
アレが早く動いた時には、追いつかれる前に、トンネルを抜けないといけない。
アレと会ってしまうと、発狂するか、そのまま行方不明になってしまう。
前述したのは、有名な怖い噂。
これだけでなく、トンネル内には女の幽霊がでる。
子供を連れた女の幽霊がでる。
トンネル内に女がいて、車を停めて乗せてやると、しばらくすると女は消えている。
などの話が有名だ。
誠がそのトンネルへの肝試しに付き合うことになったのは、知り合いに警護?を頼まれたからだった。
「霊能者の鈴木さんが一緒に来てくれれば、大丈夫ですよね?」
何度も何度も念を押された。
「僕がいても、でるものはでますよ」
誠がMたちの肝試しに同行することにしたのは、例のトンネルへ行くという彼女らが、怖がりすぎている、という点で、はしゃぎすている気がしたからだ。
多くの霊は騒がれるのを嫌がる。
怖がりすぎているのも、ある意味、霊の存在を楽しんでいるのと同じだ。
誠は彼女らの好奇心が、最悪の事態を招かないように、一緒にいて見張るつもりだった。
肝試しの日、4人で車に乗って、例のトンネルへむかった。
まだトンネルにつく前から、車内でMは泣いていた。
「ううっ、ひっ、ひっ、いやだ、もう、帰りたい」
後部座席の真ん中に、友達2人に挟まれて座ったMは、まるで、拉致されてきたように見えた。
助手席に座った誠は、この子たち、特にMがトンネルの中で車から降りようとしたら、止めようと思った。
こんなに盛り上がっていたら、霊がヘソを曲げて、発狂するものや、行方不明者が出かねない。
誠は、知り合いのMを心配していた。
霊現象に大きなリアクションを取るものは、その時点で、霊に魅入られているともいえる。
そして、車が旧トンネルに着いた。
車通りの少ない、暗いというか、まったく見えないトンネルだった。
トンネルに入る前に、一旦、車を止めた。
「みんなにお願いがあるんだけど、これから、車がトンネルに入って、向こう側に抜けて、Uターンしてここに戻ってくるまで、なにか奇妙なものを見たり、聞いたりしても、一切、反応しないで欲しい。
それについて、騒ぐのは、車が街中に戻ってからにしてくだだい。
いいですね?
お願いしますよ」
誠からの真剣なお願いに、Mを含めた4人は、神妙な面持ちで頷いた。
車が発進する。
トンネル内も照明は暗く、カーブもあって見通しは悪かった。
さすがに心霊スポットとして、有名なトンネルだ。
誠には、噂の女性と子供の霊が、トンネル内にいるのがみえていた。
どちらも車を眺めていが、車内には入ってこない。
「ううぅ、ひっ、ひっ、もう、ムリ・・・!!」
雰囲気に耐え切れなくなって、声をあげたMの口を左右の友達が、手の平でおさえた。
「なんにも起きてないよ。Mさん、落ち着いて」
実際は、車内のMの様子をうかがうように、窓に子供がへばり付いていたが、誠は、それは口にしなかった。
トンネルから離れれば、この子は消えると思ったら。
車はトンネルを抜けるとすぐにUターンして、同じコースを逆に進んで、元きた場所に戻った。
所用時間は10分ほどの、肝試しドライブだった。
帰り道もずっとMは泣いていた。
「トンネルで子供がいたの見た」
きみの怖がる気持ちがあの子を呼んだんだよ、と思ったが、誠はなにも言わずにいた。
そして車は街中に着いた。
駐車場に車を止めて、今夜の会も解散だ。
「あー、なんかついてる!!これ、これって、手形だよね?」
Mが車の窓の外側に残った子供の手形を見つけて、騒いだ。
やはり霊はすぐ近くまで、来ていたのだ。
「うわわわわわあー!!!!!」
続いて、Mが今度は悲鳴をあげた。
アスファルトでつまずいて転んだMは、顔から着地し、鼻を骨折した。
この夜、Mが鼻を骨折したのは、誠が守ってくれなかったせいになっている、そうだ。
END
☆☆☆☆☆
54話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
これも実話が元です。
でも、鼻の骨折ですんだのは、幸運だったかも、と思います。
みなさんのご意見、ご感想、お待ちしてます。