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100-71 探偵物語-4

100-71 探偵物語-4

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亡き父親の後をついで現在は私立探偵をしているKが、県会議員のMへの暴行傷害の容疑で逮捕されてすぐ、鈴木誠もKの共犯として、任意の取り調べを受けることになった。

誠がアパートまできた警官たちに連行されて、市の警察署の着いた時、暴行傷害の現行犯で逮捕されたKは、市の拘置所にいて、誠は会うことはできなかった。

 

「正直、僕は刑事さんたちとは揉めたくないし、やましいところは少しもないんで、大人しくここまで来ましたけど、身におぼえはまったくないですよ」

 

「じゃ、鈴木さん。

これは、なんなんですか?」

 

顔なじみの刑事が、今朝、誠の部屋で押収したという札束の入った紙袋を誠の前に突き付けた。

 

「500万円。

Kさんの証言通り、入ってますよ。

あんた、Kさんと組んで、M家に都合がいいようにいろいろ工作するってことで、この金をM家から恐喝したらしいじゃないですか。

鈴木さん、我々もがっかりですよ」

 

もちろん、誠にそんな札束のおぼえはない。

もし、そんなものが本当に誠の部屋にあったのだとしたら、それは、Kが誠の部屋にこっそり置いていったとしか考えられない。

 

となると、

 

「Kさんは、Mさんからもらえるはずの額が約束よりも少ないと言って、Mさんに暴力を振るって秘書の方に通報されたんですよね。

ニュースで知ったんですけど、Kさんは、Mさんにお父さんの調査の妨害をして、Mさんに情報を流すように頼まれてたってことですか?」

 

「あんたが、それをもし知らんのなら、拘置所にいるKさんはそう言っとる。

Kさんは、頑固な親父さんの側でなく、金をくれるM家の側についてたんじゃ。

で、あんたはそのKさんに金をもらって手伝いをしていた、と」

 

「なんかそれ、おかしくないですか?

僕はそんな金、知りませんよ。

僕はただ、Kさんがお父さんの無念を晴らしたいというから、それを手伝おうとしていただけで、KさんとM家がつながってるとか、KさんがM家からの報酬に不満があって暴行をするとか、知るわけないじゃないですか!!」

 

「でも、Kさんの証言通り、Kさんの相方だったあんたの家から、山分けした金がでてきた、と」

 

「だから、そんな金も知るわけないですよ。

指紋でもなんでも調べてください」

 

誠はこの事態に呆れてしまっていた。

 

単純に考えると、これまで、父親の情報などをM家にリークすることで、金銭を得ていたKが、父親がなくなったことでこれまでほど利用価値がなくなり、M家から金をもらえなくなった。

そこで、Mに暴行を働くまでは、まぁ、わからないでもないが、なぜ、自分までも共犯として巻き込まれないといけないのか、誠には意味不明だった。

 

「ようするに、鈴木さんは容疑を否認するんだね」

 

「はい。そりゃ、そうですよ。

こんなの認めたら、他になにをかぶせられるかわかったもんじゃない」

 

「じゃ、弁護士さんを呼びますか?」

 

「このままだとそれしかないですね」

 

誠は呆れてしまっていた。

Kと会って直接、話を聞きたかった。

Kははじめから、父親ではなくM家側の人間だったのか、それも誠にはわからなかった。

誠からは、知らない、わからない、としかこたえようのない質問ばかり受けて時間だけが過ぎていった。

なぜ、Kが誠をここまで巻き込むのか、意味がわからない。 

 

日が暮れた。

当然のごとく、誠は今夜からは留置所で泊まることになった。

KによるMへの暴行はけっこうひどかったらしく、Mは入院して治療を受けているらしい。

地元でこんな事件で名前を売ってしまっては、最悪、もう霊能者の看板を掲げてやっていけないかもしれない。

今日だけでなく、今後のことまで考えると気が重かった。

 

夜が来た。

 

今夜は警察所内の独房で寝ることになるらしい。

騒いでも仕方ないので、誠は自宅から着てきた普段着を脱いで下着姿になって、布団を敷き、横になった。

目を閉じるといつの間にか、眠りに落ちていた。

 

「鈴木さん、鈴木さん」

 

声が牢の外から声がした。

 

年配の刑事の声だ。

 

どこか不吉な響きのある緊迫した声だった。

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

「出てください」

 

硬い声で命じられるまま、誠は寝床を片付け、服を着て牢をでた。

 

「深夜ですし、お宅までお送りしますよ。

 お疲れ様でした」

 

来た時と同様に、ろくに事情もわからないまま、パトカーに乗せられ、アパートへ運ばれた。

 

車はすぐにアパートに着いた。

 

誠は、車を降りる前に、車内の刑事にたずねた。

 

「僕の容疑は晴れたんですか?

にしても、これはいろいろいきなりすぎて、ひどいですよね。

謝ってくれとは言いませんけど、あんまりじゃないですか?」

 

「鈴木さん。

あなたと組んでいたというのは、狂言だったと自白した後、Kさんが亡くなりました。

お騒がせしました。

失礼します」

 

え?

 

自白? 

 

亡くなるって?

 

深夜のアパートの前で茫然と立ち尽くす誠を残して、パトカーは去っていった。

 

ふいに誠は、また誰かから監視をされているような気配を感じたが、周囲をうかがっても、誰もいなかった。

 

 END

☆☆☆☆☆
 
 71話めは以上です。
 
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

犯罪で逮捕されたり、懲役にいった知り合いはいますが、彼らが霊を信じているかは知りません。

ただ、怪奇譚は、犯罪ではないけれども、どこか後ろめたい感じがするのは、なぜなんでしょうか?


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