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100-88 祖母には・・・(1)

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100-88 祖母には・・・(1)

 

お祓いや霊視の依頼がそれほどあるわけでもなく、かといってTVの心霊番組の出演依頼やオカルト系雑誌の取材が多いわけでもない鈴木誠は、基本、日々がヒマである。
なので、生活費を得るために、アルバイトや派遣社員として働くことも、まぁ、よくあるといえばよくあるのだが、しかし、たまたま行ったバイト先や派遣先で、予期していなかった怪異に遭遇することもそれなりにあって、時にはそれが理由でバイトや派遣を辞めることもあったりするのだ。

大きく目を見開いた女性が15階の窓の外に張り付いて、朝からずっと僕を見つめているので、15階の部屋の掃除は僕には無理です。とか、

トイレの中から細く長く白い腕が二本、伸びてきて、僕の首をつかみ、絞めようとするので、あそこのトイレは使いたくないです。とか、
多くの一般の常識的な人物には、正直には説明できない、霊能力者ならでは事情だ。
時には、他の人にはなにも見えない心霊現象をじっと眺めていたら、その時の誠を見た人が、鈴木さんは、なにも異常の一点を凝視して、放心していた。彼は、具合が悪いのではないのか?と、その職場の上司に報告して、誠は、体調不良の疑いをかけられ、その職場を去るハメになった。

「鈴木さんは、霊能力者のなんでも屋さんなんですよね?」
「なんでも屋を名乗るほど、なんでもできるわけじゃないですけど」
「霊能力はあるんですね」
「まぁ、それは、あるかないかどちらだと聞かれれば、ありますよ」
その日、誠の自宅に訪ねてきたのは、誠の旧知の霊能者から、ここで誠が霊能力を必要とする依頼を受けていると聞いたと話す男性だった。
ややくたび、不摂生でたるんだ感じの外見からおそらく40代後半の彼は、加藤と名乗った。
「実は鈴木さんにお願いしたい厄介な仕事があるんです」
「厄介とは、どのようなご依頼ですか?」
厄介な仕事をお願いされても、あまりに強力な霊の相手をするとなると、それは誠の手を余るので、加藤に、知り合いの強力な法力を持つ僧を紹介するくらいしか誠にできる仕事はない。
「たぶん、大丈夫だと思うんですよ」
加藤は、誠を励ますように優しく笑った。
「仕事相手は僕の母親です」
「あなたのお母さんになにかあったんですか?」

「なにかと言うか、母は、自分が幼い頃から、普通の人ではありませんでした」

「普通でない、とは」

「鈴木さんと同じですよ。私の母は霊能力者なのです」
「それで、僕はなにをすればいいんですか?」
「母は80を超えて、いまは認知証もでて、介護老人ホームに入っています。問題は、そこで母が」
誠には加藤の依頼がなんとなくわかった気がした。
高齢の認知証の霊能力者。きっとその言動は、周囲に理解されず、同じ施設に入居している他の老人たちとの間でトラブルを起こすこともあるに違いない。

「もしかして、お母さんをどうにかしたいんですか?」
「いいえ。鈴木さんには、派遣か、パートの介護スタッフとして、そのホームの内部に入って、実際に母がどんな状態なのかを見てきて、それを自分に報告してもらいたいんです。ホーム側が自分たち、利用者の家族には話さない、母のホームでの本当の様子を知りたいんです」
「それこそ、いま、普通にホームに聞けば、教えてくれるんじゃないですか?」
「それは無理なんです!」

END

今日はここまでです。続きはまた明日。 

☆☆☆☆☆
 
88話めは以上です。

 

すっかり忘れられていた100物語です。

今日(1/29)は僕の実母の命日なのもあって、久しぶりに鈴木誠の登場です。
鈴木誠はこの100物語を読みやすくするための狂言回しのようなキャラクターで、仕事の少ない霊能力者の青年という設定です。もちろん、架空の人物です。

説得力がないと思いますが、僕はこの100物語はきちんと完成させるつもりです。

この100物語は基本、僕自身が体験したり、直接、他人から聞いた奇妙な話がベースになっているので、広い解釈だと実話怪談といえないこともありませ。
今回のも、僕自身の体験が元です。
読んでくださった方、ありがとうございます。

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