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100-72 探偵物語-5

100-72 探偵物語-5

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1、

逮捕された回数はたくさんありすぎて、忘れてしまった。

Jが日本にきたのは、中学生の時だ。

それまでは、生れた国にいた。

金持ちの親戚の家で、なに不自由なく暮らしてきた。

しかし、父親と日本へくると状況は一変した。

いつの間にか日本人の母はいなくなり、関西地方で父と2人暮らし。

悪い仲間があっという間に増えた。

 

最初に警察に捕まったのは、Jがパソコンを使ってつくったニセ札がバレた時だった。

小さな店ではOKだったのだが、大型ショッピングモールの自動レジは、ニセ札を判別し、すぐに警備員がきて、警察に引き渡された。

少年院では、いじめにあったので、院をでるとJはジムへ行って、ボクシングを学んだ。体は細いまま、筋肉がついて、パンチが強くなり、1対1のケンカでは負けなくなった。

関西の高校へは行かず、父の仕事の都合で、一緒に中部地方へ引っ越した。

中部の外国人学校へ編入した。

そこでもまた仲間ができた。

いつ警察に逮捕されてもおかしくないやつばかりだった。

Jにとって、日本の警察は、仲間を捕まえるひどい連中だった。

Jの父親も、仲間の家族もなかなかいい仕事にはつけなかった。

盗んだり奪ったりするのは、生きていくために必要だった。

その地区で絶大な力を持つM家とJが関わりを持つようになったのは、偶然だった。

Jが盗みに入って奪った高級腕時計から足がついて逮捕された時、同じ刑務所にいた在日外国人の仲間が、Jが刑務所をでた後、M家が金をだす仕事を紹介してくれた。

脅したり、暴れたり、日本のヤクザがするような仕事をM家は、Jたちに依頼してきた。

M家はとにかく金払いがよかったので、Jたちとしては、ありがたいお得意さんだった。

 

すべてはうまくいっていた。

 

Kの殺害に手を貸すまでは。

 

Kや仲間たちはワルとはいっても、普通、殺しや性犯罪などはしない。

それは仲間内でも軽蔑される行為で、仲間の信頼、つながりを恐れるJたちからすれば、タブーともいえる行為だったからだ。

長年、M家のことをかぎまわってきたKを殺害する、となった時、さすがのJたちもそれを引き受けるのは、ためらいがあった。

提示された金額は、莫大だった。

しかも、仕事を終えたら、海外へ飛ぶ(逃走)のも手伝ってくれるという。

だが、やはり、自分と直接関係のない人を殺すのはみんなイヤだった。

ところが、Kを直接殺すのは、Kの息子で、Jたちはあくまで、その現場が見つからないように、人払いをしたりしてKの息子の手伝いをするだけでいいということになった。

Jたちは仕事を受けることにした。

あくまでKの家族の問題に、Jたちは手を貸すだけだ。

Jたちは計画党通りKを山奥のダム湖へ呼び出し、Kの息子と2人きりにした。

そこでなにが行われたか、Jは知らない。

時間が経つと、山奥から戻ってきたのはKの息子1人だった。

翌日、Kの遺体がダム湖で発見され、事件は、事故で処理された。

Jは報酬をもらって、その後、日本を離れる前に、もう人稼ぎしようと、民家へ忍び込んで窃盗を働いた。

その時盗んだ金の指輪がきっかけになって逮捕されたのだが、どうもおかしい。

「オレは、誰かにつけられてたんだ。

オレが盗みに入るのをみてたやつがいる」

Jのその証言は、誰にもまともに聞いてもらえなかった。

検査の結果、覚せい剤を使用しているのが判明したJの言葉は、信憑性が低かった。

再犯者であるJは有罪になり、再び刑務所に入ることになった。

取り調べ中も、収監されていたJの様子はおかしかった。

いつもビクビクして周囲を気にしている。

「誰かがオレを見張っている。

昼間も、夜中もずっと、だ。

頼む、助けてくれ!!」

Jの訴えは、薬物中毒患者の後遺症と考えられたが、昼夜を問わず、Jが同じことを口にし続け、怯えた態度をみせ続けるので、Jは精神科の病院へ入院することになった。

そこでもJの症状はかわらなかった。

Jは、看護師に、医師にと、1人1人の人物との面会を繰り返し要求した。

異例ではあるが、警察とも相談したうえで、Jの希望は認めら得た。

霊能者、鈴木誠との面会である。

 

2、

誠がJが入院している病院へきたのは、J自身の要望と、地元の警察からの依頼があったからだった。

誠はJとは面識がなかった。

しかし、誠も興味があったKの息子が、拘置所でMとつながりがあったのを自白して自殺し、その後もいろいろあってから、すでに半年以上が過ぎていた。

いまとなっては、深く事件に関わって、まだ生きているのは、Jくらいしかいない。

精神科医、看護師と刑事たちが見守る中、精神病院の個室で、誠とJは対面した。

「鈴木さん。

助けてください。

Kさんが、いまもオレを見張ってます。

ほら、鈴木さんの横に立って、こっちをみてます。

鈴木さん、オレはKさんを殺してません。

Kさんをダム湖に落として殺したのは、息子だ。

オレは関係ない。

鈴木さん、Kさんにオレのとこへこないように説得してください」

Jは大きなクマができ、落ちくぼんだ目で誠を見つめ、口角泡を飛ばして、一気にまくしたてた。

Jは一連の時間の取り調べの中で、刑事たちの話の中から誠を知ったそうだ。

誠をKの仲間の霊能者だと思っているらしい。

「鈴木さん、

 これ以上、オレを苦しめないでくれ」

「Jさん。

 はじめまして。

 最初にKさんが亡くなって、息子さんが自ら命を絶たれ、そして、最近、Kさんがずっと調査していたMさんもお亡くなりになりました。

ご存知ですか?」

Jは黙って首を横に振った。

M家に関する話題には、Jは、逮捕後も一貫して黙秘している。

「地面の下の、老朽化していた水道管が破裂して、Mさんが乗っていた乗用車が走っていた道路が陥没したんです。

車は、地面に突き刺さる恰好になって、後部座席にいたMさんは、割れたガラスの破片が刺さって、亡くなりました。

ここの部分の水道の工事は、かってMさんが議員時代、汚職問題になった業者によって取引で行われたものだそうです」

「鈴木さん。

いま、あんたの横のKさんがオレをにらんでる。

指をピストルの形にして、オレにむけてるんだ。

殺される!!

とめてくれ!!」

Jが半狂乱になって、椅子の上で暴れだした。

その状態をみて、医師がSTOPをだしたので、誠は刑事たちと一緒に病室をでた。

「鈴木さん。

見えてるんですか?」

「なにがです?」

誠は聞き返す。

「Kさんですよ。

ここに、いるんですか?」

「さぁ、刑事さんたちは、霊の存在を信じるんですか?」

誠の返事に、刑事たちは、硬い表情でお互い顔を見合わせた。

「犯罪の捜査をしていると、常識ではわりきれない事態にでくわすこともあります」

そこまで話すと、刑事たちは、全員、黙ってしまった。

「日本の公務員が、霊的なものを公に認めるわけにはいかないのは、さすがに僕にもわかります。

ここからは、僕の一人言ですよ。

Kさんがもしもこの場にいて、僕の隣りにいらっしゃったとしたら、きっと、いまさっき、刑事さんが言われた言葉を聞いて、大きく首を縦に振られたと思いますよ。

そして、息子さんの死やMさんの死も含めて、今回の一連の事件に僕を巻き込んでしまったことをねぎらってくださった、と思います。

余計なことですが、Jさんがいま苦しんでいるのは、これまでの彼がしてきたことに対する自責の念です。

Kさんが彼になにかしてるわけじゃありません。

Kさんは、誰にもなにもしてませんよ。

じゃ、僕はこれで失礼します。

またなにかお役に立てることがあれば、連絡ください」

誠は刑事たちに会釈をして、その場を後にした。

誠が開けようとした病院の出入り口のガラスの扉が、風の加減か、1人でに開いた。

「すみません。

 ありがとうございます」

誰に言うともなく、礼を述べて、誠は病院をでた。

まるで、誠以外にも誰かがいるかのように、刑事たちは整列して敬礼し、誠の後姿を見送った。

 

 END

 

☆☆☆☆☆
 
72話めは以上です。
 
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

探偵物語は今回で完結です。

最近、この100物物語が僕個人が思っているよりも多くの人に読んでいただけているのを感じます。

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