100-64 火事
100-64 火事
昭和の昔に、その日、地震が起き、その場で、火災が発生したのは事実である。
それは、当時の新聞にも載っている。
A「わたしは、本当に子供だったんで、なんにもおぼえてないんです。
ただ、家の下敷き、というか、瓦礫の下で泣いてたことはおぼえてます。
たぶん、あの時、わたしの片目は傷ついていたんだと思います。
この目は、生まれながらじゃないんですよ。
でも、物心ついた時には、もう片方の目しか見えなくなってました。
だから、それが普通、でしたよ。
母に聞いたら、あんたは地震の下敷きになって目がダメになったんだよ、って教えられました。
別にそれはいいんです。
わたしからしたら、ひどい地震の中で命があっただけでも幸運だったと思うんです。
ええ。
片目が見えないわけですから、車の免許もダメでしたし、いろいろ不自由なことはありましたよ。
けど、誰のせいでもないんですよ。
あの時に瓦礫の中からわたしを助け出してくれたっていう、おじさんから話を聞いたことがあるんですけど、み
んな、わたしは死んだと思っていたら、家の下で生きていたって。すごく驚いたって。
そういう意味で、わたしは強運だと思いますよ。
目以外ですか、どこも悪いとこはないですよ。
他は全然、丈夫です。
残った片目も丈夫なんですよね。
だって片目でずっとやってるのに、普通に見えますもん。
両方あったら、わたしは、目が良すぎたかもしれないですね」
B「はい。
わたしはよく覚えてます。
地震があって、妹はベットで寝てて、部屋のカーテンに火がついて、ぼうぼう燃え盛っていて、わたしは、妹を助けなきゃ、と思ったんですが、地震で家はぐちゃぐちゃで。
火の手があっという間にひろがって、部屋中、燃えて妹はわあわあ泣いてました。
わたしは、妹を助なきゃってそればっかり考えていた気がします。
それで、結局、自分がどんな行動をしたのかは、はっきり覚えてないんですけど、あの子は助かったんだから、
わたしはあの子を連れて、家から逃げだしたのかもしれません。
いまでも、あの時の燃えてる部屋で寝ている妹を夢にみます。
部屋にはわたしと妹の二人っきりで他に誰もいませんでした。
どうしよう、どうしようって、すごく困った気持ちでした。
いまでもあの子に会うとよくあの火事の中を生き延びたなぁ、と思います。
あの子は生命力が強いんです」
C「あの地震の頃、あそこの家は、あのへんで一番の旅館で、大きくて、立派だった。
あそこが崩れたんで、中にいたお客さんや、中居さんが心配になって、近所に住んでたオレはかけつけたんだ。
ああ。そうだね、たしかにボヤはあがっていたが、大きな火事にはなってなかった。
あそこの家の末っ子の女の子が行方不明になって、みんなで探したんだ。
他の娘さんは、みんなご家族と一緒に避難してたはずだよ。
三女ちゃんだけいなくて、瓦礫の中を調べたら、そこからでてきたんだ。
顔中、血まみれで、泣きわめいてたね。
とにかく、命が無事でよかったよ。
は?
上のお姉ちゃん?
だから、三女ちゃんは1人で瓦礫の中にいたんだよ。
お姉ちゃんたちは、別のとこにいたんじゃないの?
瓦礫のとこにいたのは三女ちゃんだけだよ。
オレが助けだしたんで、間違いない」
A「姉が亡くなりました。
それがですね、姉は亡くなるまでずっと、子供の頃、わたしが火事にあったのを見てたって、言ってたんですけ
ど、それっておかしんです。
そんなことありえないんですよ。
姉は母たちと避難していたんで、わたしが寝てるのを見てないんです。
でも、ずっと姉はあの時、わたしを見てたって、言ってました。
もし、姉がわたしと一緒にいたら、家の下敷きになっていたはずなんです。
家族の中で、旅館の下敷きになったのはわたしだけです。
みんな別館に避難してたんですから。
姉は占いにこだわったり、霊の声がするとか、みえるとか、言う人でした。
鈴木さん。
あの日、姉は、どうやってわたしの様子を見たんでしょうか?
夢でもみたんですかね?
本人は死ぬまで、本当に見たって信じてましたけど、あれはなんなんでしょうね」
誠はAさんの言葉に首をかしげた。
Bさんが亡くなったいま、真実は永遠にわからない。
END
☆☆☆☆☆
64話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
実話です。
不思議な出来事も体験者が亡くなれば、永遠の謎になりますね。
僕は、それはそれでよいと思います。
みなさんのご意見、ご感想、お待ちしてます。