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100-63 霊障

100-63 霊障

 

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 ある時、出張の帰りに長距離列車に乗ったNは、列車があるトンネルに入った途端、背中に痛みを感じた。

 激痛だった。

 普通に座っている姿勢を保つことができなくなり、前屈みになって両手を床についた。

 痛みはどんどんひろがろがって、背中全体、肩、腕までしびれだした。

「はじめは、まず、びっくりしました。

 病気かと思いましたよ」

 しかし、列車がそのトンネルを抜けると、Nの痛みもぴたりとおさまった。

 さきほどまでの痛みがウソのように消えていた。

 それから、数度、仕事の都合でそのトンネルを通過するたびに、Nはトンネル内で激痛に襲われた。

「普段はまったく感じないんですが、あそこにいる時だけあまりに痛むんで、病院にも行ったんです。

 医者からは、線維筋痛症の疑いもある、みたいなことを言われましたよ。

 線維筋痛症は原因不明の疾患で、全身が体の中で火薬が爆発するような、万力で締め付けられるような、キリで刺されたような、ガラスの破片が(体の中を)流れるよう、激痛に襲われるそうです。

 自分はまさに、自分が列車内で襲われてるのはそれだと思いましたが、しかし、線維筋痛症はそんな甘いものじゃなくて、その症状がずっと続くんだそうです。

 自分の場合は、あくまであのトンネル内だけですから」

 Nはそれを霊的な障害なのではないかと考え、誠に相談しにきたのだ。

「鈴木先生。

 一度、自分と一緒にあのトンネルへ行ってください。

 あれを経験してもらいたいんです」

 誠は了解した。

 Nの悩みを解決するには、自分も身をもって経験したほうがいいと思ったのだ。

 2人は、Nが被害に遭うという列車に乗った。

 並んだ指定席だ。

 列車は山の中を快調に進んだ。

 そして、

「そろそろです。

 先生、きますよ」

 Nがそう言うとすぐに列車はトンネルへ入った。

 誠の隣でNが床に両手をついて、うめきだした。

 誠自身もまた、背中に痛みを感じていた。

 たしかに、背面が内側から爆発したような激痛だった。

「ううっ」

 思わず声がでた。

 長いトンネルだった。

 抜けるまでの数分間、誠もNも、苦しみうめいていた。

「これはたしかに、ただごとじゃない」

「わかっていただけましたか」

 列車がトンネルをでると、Nと誠は互いの症状を話し合い、トンエル内でほぼ同じめにあっていたのを確認した。

「先生、これ、どうにかなりますか?」

「Nさん、実は、僕、あらかじめ、このトンネルについて調べておいたのですが、ここはトンネルを開通する時に事
故があって、工事関係者が何人も亡くなっています。

 実際、いままでにもあのトンネル内で窓の外に人影をみたなどの心霊現象が何件も報告されています。

 あそこで亡くなった人たちの念とNさんが同調しているのだとしたら、これは、もう避けた方がいいのではないでしょうか」

 誠の率直なアドバイスにNは頷いた。

「そうですね。

 会社に車での出張を認めてもらおうかと思います。

 こんなめにあっていたら、普通に電車に乗るのも怖くなりそうです。

 先生も、お疲れ様でした。

 今日は、自分は帰りはバスにするつもりですが、先生もそうされますか?」

「ありがとうございます。
 
 あれを1日2回は、きついですからね」

「いや、先生が目の前で苦しんでるのをみて、これは逃げた方がいいな、と思いました。

 ところで、先生、最後にお願いがあるのですが、あの痛み、尋常じゃないですよね?
 自分は、トンネルで亡くなられた方の中に、線維筋痛症の人がいたんじゃないかと思うんですよ。

 先生、それを調べてもらえますか?

 自分はそれがわかったら、その人のお墓へ供養へいきたいです。

 死んでもあんな痛みを背負ってるなんてひどすぎます」

「そうですね。

 同感です。」

 誠は、帰ったら、鉄道会社に問い合わせてみようと思った。


 END

 


☆☆☆☆☆

 63話めは以上です。

 この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
 
 実体験ベースです。
 

 トンネルでの怪現象は、列車の場合もけっこうありますよね。  
      
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