100-65 うさぎ
100-65 うさぎ
「鈴木さん。
動物霊って本当にいるんですか?」
誠の事務所に訪ねてきたのは、まだ若い女性だった。
自己紹介によるとCさんは、20代で女優を目指しながら、アルバイトで生活しているという。
気になることがあって霊能者の誠の事務所にやってきたのだ。
「わたしのペットがすごくわたしと仲いいんです。
自分で言うのもなんですけど、普通じゃありません。
部屋の外からわたしが歩いてくる気配を感じていて、アパートの玄関のドアを開けると、突撃してきます。
部屋にいる時はいつも傍にくっついているし、お風呂も一緒だし、寝る時もわたしのおふとんに入ってくるんですよ」
「それは、犬か、ネコですか?」
「いいえ。
ウサギです」
Cさんの返事に、誠もすこし驚いた。
Cさんは続けて、
「だから、さすがに話はできませんけど、あの子とわたしの間には、つながりがあるような気がして、霊的な結びつき、っていうんですか? そういうので結ばれてる人間と動物ってあるんでしょうか?」
「うーん」
飼い主と仲が良すぎるウサギの問題は、霊能者ではなく、獣医やペットショップに相談すべき気がしたので、誠は、Cさんにそれを伝えた。
「ですよねぇ。
実はもう獣医さんには聞いてみたんです。
そうしたら、うちの子は普通じゃないって、普通のうさぎさんなら、そもそもそこまで人になれるとか、ありえないって」
「なるほど、それで、僕のところへ」
「はい。
うちの子、わたしがお友達にいただいてうちにきたんですけど、その子も人からもらったそうで、もともといつ生まれたのかわからないんです。
それでもわたしのとこにもう5、6年はいるからけっこう高年かもしれないんですけど、平均的には6、7年が寿命らしんですけど、でも、全然元気で。
もしかしたら、この子、死なないのかもしれません」
「まさか、死ななくはないでしょうけど」
誠の言葉にCさんは、首を横に振った。
「あの子はわたしを残して死なない気がするんです。
鈴木さん、あの子ともっと気持ちを通じ合わせたいんです。
なにか、方法はあるんでしょうか?
動物霊がいるなら、うさぎにも霊的な力があるんですよね。
なら、あの子とわたしの霊同士で交流できないですか?」
Cさんの願いはわからないでもないが、ムチャだと思った。
その日、Cさんは、うさぎへの思いをたっぷり語って帰って行った。
数日後、Cさんが再び、誠の事務所を訪れた。
例のうさぎがいなくなってしまったらしい。
「実はわたし付き合っている人がいて、その人との結婚話がすすんでいたんです。
で、わたしとしては、当然、うちの子も連れて一緒にお嫁にいくつもりでした。
なのに、あの子はきっと余計な気を使って、わたしが窓を開けていた隙にそこから出て行ってしまったんです」
「小動物ですからね、発見されるのを祈るくらいしか、できることは」
「鈴木さん。
あの子からわたしへメッセージが届いたんです。
あの子はわたしが迎えにいくのを待ってるんです」
Cさんは、真剣な面持ちで誠に昨夜みた夢を語りはじめた。
「夢の中で、わたしはある村の住人なんです。
その村には、カメ寺っていう寺があって、ケチで有名な住職さんが住んでるんです。
古い蔵が3つもあるお寺で、そこの門とかがちょっと壊れただけで、
「うちの寺は貧乏で金がない。
みんな修理費をくれ」
とか大騒ぎだして、檀家さんに寄付を求めるんです。
東京のお寺に出張する時も、ケチだから新幹線代を惜しんで、自転車に乗って、1日近くかけてでかけるんです。
帰りも1日がかりで帰ってきます」
「カメ寺ですか?」
「すごくリアルな夢でした。
日本のどこかにカメ寺はあるんです。
そして、あの子はそこに捕まってるんです。
うさぎとカメは仲が悪いっていいますよね。
あの子は不思議なうさぎさんだから、悪いカメに捕まってしまって。
鈴木さん、カメ寺を知りませんか?」
誠は、カメ寺を知らなかった。
とにかく彼女が危険な状態なのは、わかったので、彼女から、付き合っているという彼氏の連絡先を聞き、そこに電話して迎えに来てもらうことにした。
彼氏は、常識的な人で、誠の事務所まできて、彼女を連れていってくれた。
「鈴木さん。
ご迷惑をおかけしました。
Cちゃんは、うさぎに夢中になりすぎなんです。
でも、こうして時間が経てば落ち着くと思います。
オレは待ちますよ」
しかし、彼氏がCさんを病院へ連れて行き、入院した彼女は、その夜に、病院から姿を消した。
彼氏から電話をもらった誠は、カメ寺について調べた。
Cさんがむかった先はカメ寺だと思った。
かめでら。
そんな名前の寺は調べても実在しなかった。
なら、東京まで1日かけて自転車で行くケチな住職ならどうだろうと、そちらも調べてみた。
個性的な名物住職は各地にいたが、Cさんが教えてくれたような人物は見当たらなかった。
そして、行方不明になってから約一週間後に、Cさんは警察に保護された。
Y県の山道で倒れていたのだ。
彼女は病院で着ていたパジャマ姿で、疲労困憊していた彼女の隣には、まるで守り神のように、うさぎが寄り添っていた。
彼女はうさぎと一緒に病院に入院し、一緒に回復して無事退院したという。
誠は後日、彼氏から、Cさんと別れたという連絡をもあらった。
Cさんは、いまもうさぎと暮らしているそうだ。
END
☆☆☆☆☆
65話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
僕(honkidehon)の妻は、うさぎ好きを自称するほどのうさぎ好きですが、この作品のCさんほどではありません。
Cさんはモデルがいます。うさぎの話をする彼女はキラキラしてましたね。
みなさんのご意見、ご感想、お待ちしてます。