100-69 探偵物語-2
100-69 探偵物語-2
「父は学校をでてから警官になり、定年退職するまでは、ずっと警察に勤めていました。
そして退職してからは、私立探偵になったのです。
自分にはしなければならない、仕事があるといって」
朝からの訪問者はKと名乗り、誠に事情を話しはじめた。
「父が亡くなったのは、最近のことです。
事故死でした。
ダム湖に転落して水死体で発見されたのです。
父は、自分の身にもしものことがあったら、霊能者さんの力を借りてでも、仕事をやりとげる、と言っていました。
直接、面識が会ったかどうかはわかりませんが、鈴木さんのことは、同じ地域にいる霊能力者さんで、これまで警察の捜査にも協力してくれたことがある、と口にしていました。
昨夜、父が私の夢にでてきたのです。
いつも着ていた茶色のコートで、私の前にきて、仕事の続きを終えるまでは、こっちにいる、とつぶやきました。
私は、あれがただの夢とは思えませんでした。
父は死後も、生前の仕事の続きをするつもりです」
誠は昨日、実際に、Kの父親の気配を感じているし、この部屋に父親とおぼしき人物が来たのも見ている、ので、Kの話がウソだとは思えなかった。
問題は、すでに亡くなっているKの父親が誠になにを求めているかだ。
「あの、Kさんのお父さんは、最近、事故死されたんですよね」
「……」
Kは苦い顔で黙った。
誠は失礼かもしれないとは思いつつも、踏み込んだ。
「本当に、事故死なんですか?
警察は完全に事故と判断しているんでしょうか?」
「・・・・・・警察も、私も、他殺の可能性がある、と考えています。
父が他殺される原因は・・・・・・あります」
「ほう。他殺されたとしても、原因がある、と言いきれるんですね」
「はい。
ここまで話した以上、鈴木さんに隠しても、しかたがありませんから、お話しますが、父はずっとM家を追っていました。
M家については、鈴木さんもこの市に住んでおられるのなら、御存知かと思います。
かっては総理大臣もだした家柄です。
その後も国会議員はもちろん、県会議員、市会議員、有力企業の経営者など、血族はみな、力のある一族です。
現当主は、まだ若手の国会議員ですが、先代もすでに国政から退いたとはいえ、昨年まえ選挙にでて、現在も県会議員をしており、一族が経営している企業の会長職もしています。
父はその先代をずっと追っていました。
汚職、収賄といった金銭問題もそうですが、父は、M家は、この市の不良外国人を使って、窃盗や恐喝、時には殺人などの事件まで、起こしていると考えていたようです」
「Mは、暴力団などではなく、この市に住む不良外国人に汚い仕事をさせていた、と」
「南米系の在日外国人たちです。
法にふれる大きな仕事をした後には、海外に逃がしたりもしていたようです」
「それが明るみにでれば、これは大スキャンダルになりますね」
「そうなんです。
父は、在日外国人の不良たちの証言を糸口にM家に迫ろうとしていました。
M家からすれば、父はうるさい存在だったと思います。
M家の一族には警察の関係者もいます。
父は警察官だった頃から、M家がらみの件は、かなり動きづらいと言っていました。
それが」
Kは意味ありげに言葉を切った。
「父は以前、暴行、窃盗容疑で刑務所にいたある在日外国人が、M家の依頼で犯罪を犯していたと確信していました。
そいつは刑務所をでて、いまはこの市にいます。
そいつをマークすることでMを起訴できるところまでいけると、考えていました。
父が殺されたとしたら、その在日外国人だと思います。
そいつは、いま、拘置所にいます。
父が亡くなった後、別件の窃盗容疑で逮捕されたんです」
「亡くなったお父さんが、その仕事をするための手足として、霊能者の僕が必要だと、言うんですか?」
「はい」
Kは力強くこたえた。
息子さんはやる気だけれど、幽霊探偵の意志を継いで、犯罪事件を調査するなんて、さすがに荷が重い気がするな。
誠はすこし弱気になった、が、
甲高い音をたてて、誠の事務所の窓ガラスが割れた。
何者かが、外側から、石かなにかを放り投げたらしい。
誠とKは体をかためて、窓を眺めたが、攻撃は一度だけだった。
「Kさん、これは!?」
「自分は父の後を継いで、探偵として、M家について捜査しています。
在日外国人がちょっかいをだしてきたんだと思います。
鈴木さん、父の無念を晴らすために力を貸していただけますか?」
おそらく、この市でKさんの依頼を引き受けそうなのは、僕だけなんだろうな。
誠は、この先が心配になりながらも、Kに握手を求める手を差しだした。
「Kさん。
わかりました。
M家が犯罪に関わっている証拠を見つけだし、告発する、ということですね。
それが、お父さんの無念を晴らすことになるのなら、僕にできる範囲で協力します。
でも、まず、この窓ガラスの件は、警察に連絡してもいいですね?」
「もちろんです。
警察の方もM家の味方ばかりではありません。
父や私の味方もいます」
Kは、両手で誠の手を握り、笑みを浮かべた。
END
☆☆☆☆☆
69話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
今回の「探偵物語1-5」は、実在の事件、人物等の特定のモデルがいるものではありません。
ミステリ風の怪談として楽しんでいただければ幸いです。
みなさんのご意見、ご感想、お待ちしてます。