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100-67 おふだ

100-67 おふだ

 

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 Mさんにとって霊能者と話をするのは、珍しい体験だった。

 霊能力に興味はあるが、自分にはそんな力はないし、心霊的な怖い思いをしたいとも思わない。

 でも、実際に霊能者に人と話ができるのなら、聞きたいことはいくつもあった。

 鈴木誠という人は、TVに出たりもしているし、普段から霊能者として、依頼人の悩みを解いたりして生活しているそうだ。

 Mさんの知り合いが以前、鈴木誠に仕事を依頼したことがあった縁で、今日、Mさんは、こうして鈴木誠と会うことができた。

 鈴木誠は、みたところ、ごく普通の青年だった。

 Mさんは、鈴木誠の私的な散歩に付き合う格好で、彼と一緒に市内を散策することになった。

「あの、鈴木さん。お聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?」

「どうぞ、普通に話してもらっていいですよ。

 もしも、僕の方で料金が発生するような案件なら、こちらから、そのお話はお金を頂くことになりますと、あらかじめ言いますから、それ以外は遠慮なく、なんでもお話しください」

 誠は気さくな感じだったので、Mさんは、構えることなく話ができた。

「わたしの、母の実家の地方の話なんです。

 A県の田舎なんですけど、その地方の部落には、不思議な習わしがあって、遠い昔にかけられた呪いがいまも生きているって、いうか、鈴木さん、そういうの信じますか?」

「信じるかどうかではなく、僕は、呪いはあると、知ってます」

 誠はさらりとこたえた。

「へぇ。呪いって、やっぱりあるんですか?」

「あります。

 そして、呪いは、それが本物の呪いであるのなら、口にしない方がいい」

「え?

 話しちゃいけないんですか?」

「病気が人にうつるように、話すことで、人から人へとつながってゆく呪いもあります。

 誰もそれについて話さず、いつしか関係者みんなの意識から消えてしまえば、消滅する呪いもあると思いますよ」

「でも、私のはたぶん、それじゃないんです。

 何年経っても消えずに、いまも残ってるんです」

 誠は、かるく頷いて、眉をひそめた。

「母の田舎にあるその集落では、毎年、必ず人が亡くなるんです。

 小さな田舎の集落ですから、住民は高齢化していて、人工は減少しています。

 ですが、その集落の中の一地域だけ、その地域に住んでいる人たちのみ、必ず、年に一人ずつ亡くなっていくんです」

「それが呪いなのだとしたら、その件については、もうこれ以上、口にしない方がいいでしょうね」

 誠は、たんたんとつぶやいた。

 Mさんとしては、もっと、いろいろな考察などをききたかったのだが、誠の方が話したくないのなら、仕方がない。

 それでも、まだ気になるので、

「鈴木さんは、その連鎖を止めたりはできないんですか?」

 Mさんの言葉に、誠は短く笑った。

 そして、

「そこまで大きなものでないにしても、人の世でおきる負の連鎖をとめられるのは、当事者だけだと思いますよ」

「当事者、ですか?」

「ええ。加害者と被害者のどちらかにしか、その連鎖はとめられないでしょうね。

 つまり、人と人との深い仲には、ご本人たち以外は、手や口をだしてもムダだということです。

 違いますか?」

 誠のわかったような、わからないような説明に、Mさんは黙った。

 しかし、それでは、まるで、くさいものにはフタをしろ、ではないか、とも思う。

 霊能者とはいっても、しょせん、本当に深い怨恨には、やはり、ふれたがらないのだろうか?

 散歩は続き、最後に2人は電車に乗った。

 座席が空いていたので、Mさんと誠は並んで座った。

 通路を挟んで、2人のむかいにも座席がある。

 と、Mさんは、自分の真正面に座った女性が奇妙なものを手にしているのに気づいた。

 その女性が持っているのは、一見、普通のスマホなのだが、だが、スマホの背面に、ビニールに包まれた御札が
張り付けてあった。

 白地に赤い文字で、まるで呪文のような感じで書かれた縦長の御札だ。

 それは、スマホの背面にプリントされているのではなく、あくまでビニールに入れた御札をスマホの背面にくっつけて持っているのだ。

 「なんだあれ?」

 Mさんは奇妙なそれに注意を奪われた。

 横に座った誠の耳もとでささやく。

「鈴木さん、前の人、スマホに御札つけてますよ。

 あれ、なんなんでしょうね」

「Mさん、それは口にしない方がいい」

 誠は、先ほどの会話と同じような言葉を口にした。

 Mさんは、前の席の女性の手元から目を離せなくなった。

 彼女は、御札をつけたスマホで話し続けている。

 電車内なのに、通話をやめる気配はなかった。

 考えてみると、それもおかしかった。

 御札付きのスマホで電車内でしゃべり続ける女。

 数分間、その状況が続いた。

 それから、今度は、誠がMさんの耳元に口を寄せてきた。

「ほら。気づかれた」

 誠のささやきがまるで合図のように、向いの席の女性は顔をあげ、Mさんと目線を合わせた。

 20代中後半くらいの、Mさんと同年代の女性だった。

 どこか楽しそうな雰囲気が漂っていた。

「目をそらして。いつまでも、見ていてはいけない」

 前の席の女性がいまにも笑いだしそうな感じだったが、Mさんは、誠に手をひかれ、電車を降りた。

 電車をおりると、誠はMさんにたずねた。

「ああしたものを直視して、どうしたいんですか?

 あなたは、どうにかできるんですか?」

「いえ、私は、なにもできません。

 すみませんでした」

 Mさんは、理屈でなく、誠の言いたいことがわかった気がして、頭をさげた。


    END

☆☆☆☆☆

 67話めは以上です。

 この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
 
   先日、電車の中で僕が見た光景です。

 僕はこの件の女性に、にっと微笑まれてしまいました。

 見ない方がよかったと思います。

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