100-81 忘れられない-3
100-81 忘れられない-3
夜、約束した時間に道子が待っていると、昼間と変わらない格好で誠はやってきた。ネットの情報ではこのコンビニにからすぐ近くの国道沿いの歩道に、ゆきとおじさんは現れるらしい。
2人は深夜、いつの間にか姿を見せ、ゆきがおじさんに連れられる格好で歩道を歩いてゆき、しばらくすると姿を消してしまう。
目撃者の中には、そのおじさんが、女の子に「ゆきちゃん」と声をかけるのを聞いたものもいる。
昼間、事務所でゆきの霊を見たという誠は、ゆきもおじさんもすでに亡くなっていて、2人は居場所を求めて、このへんをさまよっているのだそうだ。
道子は霊感がないらしく、昼間もゆきの姿は見えなかった。
しかし、誠が言うには、人気のない深夜、しかも本人に思い入れのある場所でなら、霊は霊感のない普通の人にも見えるくらいまで実体化するらしい。
「きっと深夜のゆきちゃんは、あなたにも見えると思いますよ」
誠に言われ、道子は、
「私、ゆきに謝りたいんです。
ごめんなさいって。
あの時、1人で逃げてしまって、まさか、こんなことになるなんて」
「わかりました。
今夜でゆきちゃんと本当にお別れできるといいですね」
道子は黙って頷く。
誠と道子はコンビニを出て、歩道を歩いた。
地方都市のはずれなので午前零時を回った深夜は、人も車もほとんど通らない。
ネットで話題の心霊スポットと言っても、わざわざ見に来ているものの姿もなかった。
コンビニから数百メートルも離れた頃、道子は国道を挟んで向こう側の歩道にそれを見つけた。
さっきまでいなかったのに、自分たちと平行移動するよに、ムラサキのジャージの小太りの中年男と、ピンクのパーカーの小学生くらいの女の子。
道子は思わず足をとめ、2人を眺めた。
「見えました。間違いなくあの2人です」
「みたいですね。とりあえず、僕は見ていますから、あなたの思うように行動してください。
僕のことは気にいで。
いいですね?」
「はい」
道子は駆け出した。足が動くのを押さえきれなかった。
少し先の信号を渡って、2人がいる側の歩道へ向かった。
誠がついてきているかどうか確認もしなかった。
「ゆき、もう消えないで!!」
頭の中はそれだけだった。
2人まであと数メートルのところまできた。
「ゆき!待って!!」
叫んで、手をのばした。
ゆきとおじさんがこちらを見た。
それは間違いなく30年以上前のあの日のゆきだった。
道子はゆきに駆け寄り、彼女を抱きしめた。
「ゆき、ごめんね」
ゆきはなにも言わず、道子の腕の中で、道子を見つめていた。
と、おじさんがゆきの手を引いて2人は歩き出そうとした。
「待って。今度は、私も行く」
おじさん、ゆき、道子と3人が手をつないだ形で、ガードレールをはずれ、いまも当時と変わらず残っている森のほうへと歩き出した。
暗い杉の森の中でも2人の姿はぼうっとした光に包まれて、道子にも見ることができた。
森は、30数年前のあの日以来、来ていない道子の記憶の中のままだった。
闇に沈んでいて、木々や植物、自然のにおいがした。
おじさんもゆきも足音もなくずんずん進んでいく。
「ゆき、いままでずっとごめんね。
私あれから何度も何度も、あの日のこと、ゆきのこと、この森のことを夢に見たよ」
道子は話しても、あとの2人は声を出さない。
森の奥、山へと続く道を3人は進んでいく。
そしておじさんとゆきが足を止めた。
目の前には2、3メートルほどの高さの草木の密集した茂みがあった。
まず、おじさんがその茂みの中へと進み、消えていった。
続いて、ゆきも茂みに足を踏み込み、ほぼ半身が茂みに見えた。
それでもまだ片手は道子の手を掴んだままだ。
いま、ここでゆきとこの茂みに入ったら、私は戻ってこれなくなるかもしれない。
けど、また前みたいに1人で逃げて悩むなら、ここで、いっそ。
迷い、道子が足を止めていると、
「道子さんを連れてくなら、じゃ、僕もいっしょに行くよ」
道子の後からついてきていた誠がいきなり手をのばしてきて、ゆきの手首を掴んだ。
その途端、ゆきの手は、姿は消えた。
また、ゆきが行ってしまった。
道子はその場に膝をつき、崩れ落ちた。
横に立っている誠は、携帯を出し、どこかに連絡している。
「○○さん。いつもお世話になります。
鈴木誠です。
今日、昼間御連絡した件なんですが、そうです。30年ほど前の事件です。
誘拐というか行方不明で処理されている事件です。
おそらくその犯人と被害者の遺体がある場所を発見したんです。
森というか山ですね。
はい、市の西の△山です。
間違いないと思います。
警察で調査していただけないでしょうか?
はい、僕も立ち会わせていただきますよ。
よろしくお願いします」
地元警察の協力を得て、数日後、ゆきのものと思われる少女の骨と、中年男性の骨がその茂みから発見された。
どうやら、30数年前のあの夜、男はゆきを殺害し、その後に自殺したらしい。
2人の遺体は、男があらかじめ探しておいた天然のほら穴の中で、ずっと発見されないままになっていたのだ。
誠と道子は、未解決事件の解決に協力したということで、地元警察から感謝状を贈られた。
結局、犯人の男は、遺体が身に着けていた免許証で、何者なのかは判明したが、犯行の動機などは不明のままで、被害者のゆきの遺骨は、家族と同じ墓に納骨された。
「鈴木さん、私、それでもゆきが忘れられないんです。
ゆきは鈴木さんが成仏させたんですよね。
これからも、私がゆきのこと思ってもいいんですよね」
「僕は別になにもしてないですよ。
あの晩のゆきちゃんは、もう僕みたいな普通の人間にふれられるだけで消えてしまうくらい弱くなっていたんだと思います。
道子さんと一緒に歩けたのは、あなたとゆきちゃんのお互いの気持ちがあったからでしょう。
これからも彼女の冥福を祈って供養するのはいいと思いますよ。
ですが、ご自分のいまの人生、御家族を大切にしてくださいね」
誠の忠告を聞きながら、道子はそろそろ大きくなりはじめた自分のお腹をなでた。
END
☆☆☆☆☆
81話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
行方不明者の探索は、心霊捜査、超能力捜査の定番ですね。
僕は、実際、霊視、霊感と一般に言われているモノについてイマイチ信用していませんが、しかし、霊視も霊感もあるとは思っています。
ただ、そこらへんの能力は人間が思いのままに自由自在に使いこなせるとは思えないんですよね。
だから、修験者は厳しい修行を重ねてそれを身に着けるのだ、と言われても、それもまたなんだか違う気がするんですよ。
僧侶や修験者、聖職者の修行、鍛錬は、霊能力超能力を身に着けるためのものではないし、例えそれを得てもみだりに使ったりしない高貴な人間性を持っているのが、ホンモノのそうした人たちだと思います。
結論として、一般の人にできないことをできるというのは、その人本人の能力ではなく神様だったり精霊だったりする超自然的と力とアクセスして使わせてもらっているのだろうと僕は思っています。お借りしている状態とでもいいましょうか。
そういう大きな摂理や意志にそむいて身勝手にその能力を使うものは、自滅を含め、いずれその身を滅ぼされてしまうと考えています。
古臭い一般的な考え方でしょうかね?
みなさんのご意見、ご感想、お待ちしてます。