100-84 雷
100-84 雷
変電機だったと思う。
ともかく危険でさわってはいけない電気施設には間違いない。
子供だったKはその機械の側にいて、素手でそれに触れた。
なぜ、そんなことをしたのか自分でもよくおぼえていない。
体中に電流が走って、その場から動けなくなった。
事態の異常さに気づいたKのおじいさんが、Kの体を体当たりでその場からはじき飛ばし、Kは窮地を脱したのだそうだ。
その事故の直後、自分の手の平が魚を焼いたようなにおいがしていたのを記憶している。
幸運にもケガはなく、後遺症も残らなかった。
その後、少年だったKは、今度は地元の海で友達と遊んでいた時に落雷にあった。
天気の悪い日だった。
海の中で浮いていたら、自分の目の前で閃光が走って、意識が消えた。
海水浴中に雷の直撃を受けたKは気を失って、溺れかけたところを一緒に遊びにきていた友達に助けられたのだった。
この時もケガはなかった。
ただ、おぼろげに自分の横に誰かがいた気がした。
自分の体にまとわりつくように、その誰かが一緒にいた。
でも、現実にはそんな人物は、Kの周囲にいたみんなは誰も見ていない。
Kも自分の気のせいだったと思うようにした。
高校生になった時、自宅の外にあったエアコンの室外機に落雷があった。
この日、Kは家の外に人の気配を感じて、様子を見るために外へでていた。
夜だった。
空では雷がゴロゴロと鳴っていた。
時折光る雷で、室外機の横にいる人影が見えた気がした。
「おい。そんなところでなにしてるんだ!!」
Kは人影に声をかけ、近づいた。
背の高い男のように見えた。
表情や服装などは暗くてわからなかった。
まるで影のような真っ黒な男だった。
Kは不審者をそのままにしてはおけないと、そいつに近づいた。
後少しでそいつの顔が見える距離まできた時、空が割れるような音が響き、轟音が響いた。
衝撃と共にKは吹き飛ばされていた。
室外機に落雷したのだ。
地面に倒れ、しばらく呆然としていたKが起きると、影のような人物はすでにいなくなった。
Kはあの影が幼い頃からずっと自分につきまとっているのを感じた。
変電機の時も、海でも、室外機のところにもあいつはいた。
あいつはいったいなんなんだ?
あまりにも気味が悪いので、考えるのはよそうかと思ったが、しかし、あいつが現れるたびに自分はヘタをしたら死ぬかもしれない目にあっている。
あいつは、オレを殺そうとしているのか?
いつしかKは、その怪しい黒い人影に日頃から気をつけるようなった。
月日が経ち、数年間、室外機以後はあいつを見なかった。
免許をとったKは自家用車でドライブにでかけた。
と、自分の車の前を、あの影が横切った気がした。
気のせいかもしれないが、万が一があってはいけないと、Kは車を路肩に寄せて停車して車から降りた。
いきなり車が発火したら、中にいたら逃げられないから。
車から少し離れたところでKが見守る中、白昼、車のボンネットに光の柱が立った。
また落雷だった。
雷の直撃を受けた車は、激しく車体全体を揺らし、エンジンルームから煙を出した。
Kは車には戻らず、JAFに電話した。
中にいたら最悪、感電死していたところだったと言われた。
相手がなにものかはわからないが、自分が命を狙われているのはたしかだった。
Kは霊能者へ相談に行くことにした。
そうしたものを信じているわけではないが、実際に影のような存在を目にしてきた以上、これは通常の問題ではないと思ったのだ。
「つまり、それはあなたの外側にいるんですよね」
Kの相談を受けた霊能者、鈴木誠は、Kの話をまじめに聞いた後、とんでもないことを言いだした。
「雷の被害を受けるあなたの側にそいつがいるのなら、あなたの代わりにそいつに被害にあってもらうことはできないのでしょうか?」
「自分の代わりにですか?」
「そうです。
霊というのは、物質としては電波、電磁波のようなものだと言われています。
僕はその説が100%の正解だとは思いませんが、あなたのところに現れているそれは、なかなかに電波的な存在だと思われますね」
「具体的にどうしろって言うんですか?」
「それが現れたら、あなたの周囲に雷が落ちたりするわけですよね。
だったら、あなた自身が移動して、雷の落ちそうな場所にそいつをおびき寄せて落雷の標的になってもらうというのはどうでしょうか?」
「そんなにうまくいきますかね?」
「試してみる価値はあると思います。
もちろん、よろしければ僕もお手伝いさせていただきますから、あなたがそいつを見かけたら、僕に連絡をください。
できる限り、すぐにその場へ駆けつけますよ」
偏見かもしれないが、やはり霊能者というのはおかしなことを言うものだ、と思いながらも、Kは誠に今後のフォローを依頼した。
果たして本当に誠の助けを借りる日がくるのかKにもよくわからなかった。
誠に協力を依頼してから数週間後、Kは勤めている会社で、あいつを見た。
社内の廊下の角から、あいつがKの様子をうかがうようにこちらを向いていたのだ。
白昼、建物の中にいてもあいつは影そのもので、やはり、この世のものではないことを感じさせた。
Kはすぐに誠に電話した。
「わかりました。僕もそちらへうかがいます」
二つ返事でKの会社へ来た誠は、Kの会社が入居している雑居ビル内をぐるりとまわってきてから、Kに作戦を提案した。
「Kさん。今日はたまたま僕がすぐにこれてよかっただけです。
おそらくもうじき、このビルに落雷するんだと思います。
このビルの屋上へ、やつをおびき寄せましょう。
鍵をかけて、閉じ込めるんです」
「落雷がやつに命中すると?」
「ええ。たぶん」
Kは誠を取引先の社員だと上司に紹介して、2人で社外で話せる時間を作った。
そのうえで、ビルの管理人室へ行って屋上の鍵を借り、誠と屋上へ。
「僕は中にいます。Kさんが屋上にでればアレはついてきますから、アレだけ残して、中へ戻ってきてください」
「アレも、オレと一緒に中に戻ってきませんか?」
「そこは僕が努力します。こんな時のために知り合いの僧侶に足止め程度はできるお札をもらってるんです」
誠は懐から呪文の書かれた紙の札をだし、Kに見せた。
「わかりました。お願いします」
Kと誠は2人でビルの1階まで戻ると、階段を歩いて最上階の屋上の入口まで進んだ。
「やつは、ついてきてますよ。僕も感じてます」
Kの隣りで誠がつぶやく。
12階につき、屋上への扉の前までくると、誠はそこで足をとめた。
Kは覚悟を決めて鍵を開け、屋上にでた。
空は曇り、雷が鳴っている。
Kが屋上にでてドアを閉め、周囲を見回すと、そいつはいた。
いつの間に屋上にきたのか、実家の室外機の前にいた時のように、水道水のタンクの前に立っている。
それは、影そのものだった。
雷の音が激しく鳴った。
いまにも落雷しそうだ。
「Kさん、早く!!」
中から誠が叫び声をあげた。
Kは屋内へと走った。
Kが飛び込むと誠がドアを閉め、お札を貼った。
そしてKが施錠した。
ドン。
なにかが屋上側からドアに体当たりした。
ドアが揺れ、誠が張ったお札も揺れた。
と、
轟音と共に、まるで地震のようにビルが揺れた。
一瞬だったが、あまりに激しい揺れにKも誠も立っておられず、その場に尻もちをついた。
「落雷だ」
「かなり大きいですね」
Kの言葉に誠が頷く。
しばらく2人はそこでしゃがんでいた。
しばらくして、確認にきた管理人と一緒に2人が屋上にでると、屋上は焼け焦げたように塗装がとれ、真っ黒になっていた。
Kは屋上に、大の字に倒れた人型の塵のようなものを見つけ、誠を呼んだが、それは誠が確認する前に、風に吹かれて流され、消えてしまった。
END
☆☆☆☆☆
84話めは以上です。
しょっちゅう落雷にあう人の話は実話です。
その人が霊能者に相談して会社の屋上で除霊するのは、実話系怪談的フィクションですね。
楽しんで読んでいただければ幸いです。
みなさんのご意見、ご感想、お待ちしてます。