100-7 「おとこのこ」
100-7 「おとこのこ」
霊能力者としての己を鍛えるために、なにをすればいいのか、考えた末に誠が選んだのは、霊や怪異について見識を広く、深く持つことだった。
20歳過ぎたいまから、仙道や修験者の修行をしようとは思わない。
もともと自分が持っている、ささやかな能力をいかに生かしていくべきか、誠はそのスタンスで進歩しようと思った。
知り合いのつてを辿って、その集落を紹介してもらったのも、これまで知らなかった怪異の現場を自分の目で見たかったからだ。
中部地方の山奥にあるその集落は、古くからの呪いがかけられているという。
「呪いなんて、本当にあるんですか?」
「おいおい、誠ちゃん。拝み屋のあんたが、それをいっちゃダメさ」
「でも、ずっと一つの集落が呪われ続けるなんて」
「ま、行ってみな。あそこはよそからきた男は歓迎してくれるぜ」
霊能力者仲間の先輩にあたるSは、この道の後輩で年下の誠にいつも親切にしてくれる。
Sが話をつけておいてくれたので、誠は集落内の一番大きな屋敷に、客として迎えられた。
建物自体が、国定記念物に指定されそうな、大きな民家である。
実際に、つてのあるごくごく一部の人間にだけは、旅館として営業しているらしい。
着物を着た和服の女主人に案内されて、誠はまず、旅館の中をめぐり歩いた。
いくつかの民家を重ねて合わせたような、複雑な作りをしている。
女将が案内してくれなければ、迷ってしまいそうだ。
「鈴木様は、拝み屋さん、をしておられるのですか?」
「僕なんか、まだ全然。修行中もいいとこですよ」
「ここへきたのも、お勉強のためなんですね」
「はい。まぁ、そうなんですけど」
Sから呪いの存在は聞いているが、その内容自体はまだ知らない。
いまのところ、この屋敷へ連れてこられて、女将をはじめとして、館内にいた和服姿の女性に何人か出会ったが、みな、美人で、礼儀正しく挨拶してくれた人ばかりだ。
「まるでここは、和服姿のモデルか、タレントばかり集めたようなところだな」
誠は単純にそう思った。
「鈴木さん。気に入った子はおられましたか?」
「え!?」
女将にふいに聞かれて、誠は大声をだしてしまった。
「どうです?うちの子たちは、みんなきれいでかわいいでしょうー?
性格もいい子ばかりですよ。
わたしのようなおばさんよりも、もっと、若い子と一緒の方がいいんじゃありませんか?」
「な、な、なにを言ってるんですか!」
「ふふ。照れちゃつて、かわいい」
「あの、そのう・・・、」
誠が困っていると、女将はスマホをだして、
「はい。いま、鳳凰の間の前にいるから、その3人をよこしてくださいな。
鈴木センセがお待ちかねですよ、って」
スマホを切ると、女将は、いたずらっぽく微笑んだ。
「いま、おんなのこを呼びましたから、今日はその子たちに相手をしてもらってくださいな。もし、気に入った子がいたら、そのまま、ここにいついてもらっても、かまいませんよ」
いつくって、どういう意味さ。
やってきた3人は、全員、20代前半くらいだった。
「よろしくお願いします」と、しおらしく頭をさげ、誠を囲むようにして館内を歩きだす。
「わたしは、また後で」
女将はどこかへ行ってしまった。
「おいおい。僕は、呪いの話が聞きたいんだけどな」
3人の女の子はみな、大人しく、おしとやかな感じで、和服を着ているせいもあって、絵に描いたような日本女性たちだった。
こうしてると、まるで日本人形と一緒にいるみたいだ。
ハタから見れば、これはこれで怖い絵かもしれない。
「鈴木先生。そこ、段がありますよ」
「先生。そちらから、沢がみえます」
「夏には、このへんは虫の声がうるさいくらいなんですよ」
3人の人形たちは、非の打ちどころがなさすぎて、そこがおかしいと言えば、おかしかった。
結局、3人と、2時間ほどすごして、誠は、ある結論に達した。
「女将さんを呼んでもらえるかい?ありがとう。きみらは、もう戻っていいよ」
「あの、私たち、なにか失礼でも?」
「いや、それはないよ。きみらは、なにも間違ってない。きみらは完璧なおんなのこだ」
女将がくると、3人は館の奥へ戻っていった。
「女将さん。お心遣いありがとうございます。
つまり、いま僕が案内してもらった、あの子たちは、みんな、」
誠の言葉をさえぎって、女将は話しだした。
「この部落では代々、男子が生まれると早死にしてしまうんです。
昔、ここでひどいめにあったお侍様の呪いだとか」
「あの人たちは、みなさん、女性の恰好していた、仕草も女性そのものだけれど」
「いえいえ、こうして、女として育てて、女にしてしまえば呪いに、殺されませんから」
「女にする?」
男性ではこの地では生きていけないから、ここで生きるには男は女になる必要が、ある、と。
「そうですよ。先生も取ってしまえば、女になれるじゃありませんか」
誠は女将の言葉に耳を疑った。
「うちの子たちはみんなそうです」
誠の頭によぎったのは、
男の娘、おとこのこ。
END
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7話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
これまでのブログ同様、ご意見、ご感想、お待ちしてます。
今日も楽しいですね。