100-17 「女屋-3」
100-17 「女屋-3」
「小学校のまわりには、怪奇スポットが多い」
地下室と市民センターでの体験以後、いろいろ考えてみた結果、誠はそんな結論に達していた。
① 小学校の前の市営住宅には女の幽霊がでる。
だからか、せっかく抽選で住めるようになったのに、住人がすぐにでていってしまったり、普通の木造の一軒家なのだが、家の中を女の幽霊がふらふらとうろついているという。
また、時には、TVのブラウン管に女の幽霊が現れたという。
スイッチをOFFにしている画面に、女の顔が映ったというのだ。
一目見たら忘れられない、髪の長い凄い美人だったらしい。
その女が、画面からこちらをじっと見ている。
驚いてこっちもそれを眺めていると、そのうち、すっと消えてしまう。
② ①の家のむかいの畑は、掘ると人骨がでる。
過去にそこになにがあったのかは誰も知らないが、とにかく、墓ではなかったらしい。
あまりにも骨がでてくるので、とりあえず、お祓いをしたそうだ。
③ ②の畑の斜め前の家では、主人が焼身自殺してしまった。
ある日曜日の夕方、突然、庭で頭から灯油をかぶり、自分で火をつけて、焼け死んでしまった。
幼い息子が見ている目の前での出来事だった。家族に優しい普通の父親で、なぜ、その日突然、死んでしまったのか、原因はわからなかった。
④ ③の家の道路を挟んだむかいには、古い寺があった
放置されて荒れ果てた古い寺で、荒れ果てた本堂には、いらなくなった家電製品などが山ほど捨てられていた。
後年、ここを整地することになったが、工事のためにきた重機が、なぜか急にエンジンがかからなくなって、バランスを崩した重機がひっくり返ってしまった。
ここもまた、掘り返すと、たくさんの人骨が埋められていた。
⑤ ①から④までの話の舞台を見下ろすように、土手があり、そこには柳の木が植えられていた。
そこの柳のところに、夜中、まるで紙で作った短冊のような、厚みのない、うすっぺらな人間みたいなものが現れると噂になった。
どうみても人ではないので、あれはきっと幽霊というやつだろう、と言われていた。
⑥ ①~⑤から少し離れた、市民センターの周囲には、畑があった。
そこは、掘ると人骨がでてくるそうで、市の消防署の寮が建てられたが、不審火がでて、女の幽霊がでるという噂もあり、誰も住まなくなり、取り壊されてしまった。
小学生時代に誠が知ったこれらの話は、いつまでも心に残った。
そして、誠が大人になった頃、その頃、誠はボランティアとして市のデイケアセンターで働いていた。
ワーカーとして後期高齢者の老人たちのお世話をするのだ。
食事や入浴、下の世話を手伝いながら、老人たちと言葉を交わした。
いろいろ話しているうちに、つい、いつものクセで、
「あのう、なにか、怖い話、奇妙な話を知りませんか?」
と、尋ねていた。
「幽霊け?幽霊は知らんなぁ」
ずっと地元で暮らしてきた老人は、気さくで話好きだったので、誠はつい、
「おんなや、って知りませんか?」
「おんなや、って、おんなやけ?知っとるよ。
おんなと遊ぶとこだ。
いまでいう、トルコ風呂みたいなとこだ」
現代では、トルコ風呂ではなく、ソープランドだろうと、誠は思った。
「それ、ここらへんにもあったんですか?」
「あったさ。けどな、おんなやちゅうのは、どこそこの店っていうわけじゃなくて、ああいう店をみんなまとめて、おんなや、って呼んどった」
「みんなまとめて、ですか?」
「そうさ。いまなら、市民センターから、市民体育館、小学校のまわりまで、全部、おんなやだった。
それこそ鎌倉時代に源頼朝も遊びに来たちゅう話だぞ。
全国からそういう女の子がきて、あそこらへんで働いとった。
だから、死んで無縁仏になった人も大勢おる」
おんなや。
女屋。
将軍も遊びにくる性の歓楽街。
残されたたくさんの遺体。
さまざまな因縁。
「おんなやだから、仕方ない」
子供の頃、市民センターで聞いた言葉が誠の耳に甦った。
「それは、いつまであったんですか?」
「兄ちゃん、行きたいのけ? 残念。いまはもうないよ。
そうだな、戦争中はまだあったな。
だいぶ減ったけど、赤線が禁止になるまでは、あったような気がする。
最後は二軒だけ残ったよ。
外人さんも相手をしてくれる、なんでもアリの店と、昔ながらのK楼ってとこだ」
「そんなことがあったなんて、知りませんでした」
「そりゃぁ、誰も言わんよ。
苦労した人、ひどいめになった人もいるでなぁ。
ほら、そこの〇山は、そういう人がおろした子供を捨てるところだったんだよ」
おろした子供。
誠の頭の中でこれまでの地元の怪異譚がつながってゆく。
すべては、おんなやにまつわる女性たちの幽霊なのか。
最近、つい数日前、誠は〇山を1人で訪れた。
町はずれの小山である。
山の頂上付近には、小さな碑が建てられていた。
「ささやかながら、メリークリスマス。
安らかにお眠りください」
おんなやの建物自体はいまはもう消えてしまったけれども、ここで生きた人たちの想いは、いまもこれからも、この土地に残ってゆくのだろうと誠は思う。
END
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17話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
これまでのブログ同様、ご意見、ご感想、お待ちしてます。
とりあえず、女屋は以上で終わりです。
私の郷里の歴史にまつわる怪談でした。
1日遅れですが、メリークリスマス。
読んでくださっているみなさん、今年はありがとうございました。
みなさんに幸せがありますように。
今日はあたたかいですね。