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100-30 神通力 

 

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100-30  神通力 

 

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「鈴木先生、オレは最近、気づいたんだけどね」

 

誠がボランティアで参加している児童福祉施設で、ある少年が話しかけてきた。

彼の名前はハルキと言う。御家族の側の都合で、ご両親と離れてこの施設で生活している小学生の男の子だ。

ハルキは、誠を気に入ってくれたのか、よくこうして話かけてきてくれる。

 

「なにかあったかい?」

 

「あのね、オレ、死ぬ人がわかるんだ」

 

「どういう意味かな」

 

誠に聞かれて、ハルキは口ごもった。

 

「いいから、先生に教えてよ。どうして死ぬ人がわかるの?」

 

「だって、死ぬ人は神様になるから」

 

彼は、まだ人の死に目にあったことがないはずだと誠は思う。

彼は身近な人の死を経験してるのだろうか。

 

「ハルキくんは、誰か家族の人が亡くなったの?」

 

「亡くなったって?」

 

「死んだって意味だよ」

 

「ううん。オレの家族は誰も死んでないよ。でも、この間、シンドウさんが死んだじゃん」

 

シンドウさんというのは、この施設にボランティアに来ていた近所の老人で、つい先日、心不全で亡くなったばかりだ。

シンドウさんは、亡くなる前日まで、普通にこの施設にきて、子供たちとふれあっていた。

子供好きな明るい老人だった。

 

「あのね、シンドウさん、自分の家のベランダからこの施設の庭が見えるって言ってたよ。でも、そんなの普通はムリなんだ。だって、シンドウさんの家は、ここからずっとむこうだもん。なのに、シンドウさんは、オレに、「ハルキが庭で花に水をあげたのが見えた」って、言ってたんだ。オレが聞いても、ウソじゃないって言ってた。きっと、本当に見えたんだ。もうすぐ死ぬ人は、神様に近くなるから、普通はできないことができるんだよ。シンドウさんの前にいたサダコばぁちゃんも、ヨウスケさんも、死ぬ前はみんな神通力で、普通ならできないことをしてたよ」

 

まじめに話すハルキの言葉を、誠は否定する気はない。

ハルキは、実際に施設にくる老人たちの変化から、彼らの死期を悟っているのだろう。

 

「サダコばぁちゃんは、明日は、ミキオくんが熱をだす、その次はミヨちゃんだって、言ってて、その通りになったんだ。

ヨウスケさんは、施設のバスが今日事故に遭うって予言してて、その日、バスは本当に追突されたよ。

そうして、しばらくしたら、2人とも死んじゃった。

オレは、だから、シンドウさんももうすぐ死ぬんだ、と思ってた」

 

この子はすこし、鋭すぎるのかもしれないと誠は思った。

鋭すぎる感性は、かならずしも人を幸せにはしない。

 

「先生は霊能者だから、そういうのわかるの?」

 

「わかる時もあるけど」

 

「先生は、次に死ぬのが誰か、わかる? オレ、わかるよ」

 

ハルキの声に影のようなものを感じて、誠は不安になった。

しかし、そのままにしてもおけないので、聞いてみた。

 

「次に死ぬのは、アヤメちゃんだよ」

 

アヤメは、施設で生活している5歳の女の子だ。

今日も普通に生活していて、どこも悪いところがあるようには見えないが、

 

「アヤメちゃんも、神様みたいな力があるのかい?」

 

「違うよ。アヤメちゃんのところにはね、あいつがきてるんだよ。

先生、見えてないの。前からたまにきてたけど、だんだんはっきりしてきたから、アヤメちゃん、連れて行かれちゃうよ」

 

「あいつって?」

 

「骸骨みたいな頭をした黒いマントを来たやつだよ。

夜になると施設の中で、アヤメちゃんの側にいるよ。

あいつはアヤメちゃんを連れてっちゃうんだ」

 

ハルキの能力が本物だとしたら、これはアヤメに生命の危機が迫っている、という意味だ。誠はハルキにこの話を誰にもしないようにお願いして、施設のスタッフに頼んで、アヤメを知り合いの住職がいる寺へと連れて行った。

長年、厳しい修行を積んできた住職は、いわゆる除霊もできる高僧だ。

誠は、自分の手におえそうもないものとあたると、この住職に助けてもらうことにしている。

アヤメを見た住職は、

 

「よくないものを背負っているね。

おじさんが、とってあげよう」

 

アヤメの頭を撫でて、本堂へ連れて行った。

お経が終わり、最近ずっと肩が重かったが、すっかり軽くなったと喜ぶアヤメを連れて、誠は施設へ帰った。

 

「鈴木先生。

アヤメちゃんのとこにいた、あいつ、やっつけたの?」

 

ハルキは聞いてきた。

 

「僕がじゃないけれど、アレには、本来いるべきところへ帰ってもらったよ」

 

「じゃ、アヤメちゃん、死なないんだ」

 

「今回はね。ハルキくん。教えてくれて、ありがとう」

 

誠にお礼を言われて、ハルキは、チッと舌打ちした。

 

「オレ、これからは鈴木先生に教えてあげるの、やめようかな。

そうすれば、あいつらに褒められるし」

 

「あいつらと仲良くすると、ハルキくんもそのうち、連れてかれちゃうぞ」

 

誠は、本気で忠告した。

 

そんなハルキは子供らしく、大げさに首を横に振って、

 

「それはイヤだから、先生に言うよ」

 

END

 

 

☆☆☆☆☆
30話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

今回のも体験談プラスアルファです。

後に考えると、亡くなった人が、その死の前に明らかに常人ではない言動をしてることってありますよね。

ありますよね、というのは、僕自身が体験としてそれを感じている出来事がいくつかあります。

見てるようで見てないだけで、不思議は身近にありますよね。

 

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