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100-42 呪殺

100-42 呪殺

 

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相手を呪い殺すような呪力の持ち主。

そんなやつがいるとして、どうにかできるか?

 

依頼人からそうもちかけられ、誠はすぐにその場を逃げ出したくなった。

拝み屋の看板をあげて生活し、霊能力があるのは自覚してはいるが、それを人と競い合う気はまったくない。

「相手は本物なんです。

このままだと私は殺されてしまいます。

鈴木先生、助けてください!!」

「ようするに、このままだとあなたは、呪殺される、と言うんですね。

で、それを僕にどうにかしろ、と?」

「はい」

依頼人は、ごくごく普通の中年のスーツ姿の男性だった。

中肉中背でこれといった外見的特徴もない。

平日の夕方に、誠の事務所にいきなり訪ねてきて、こんな話をはじめるのは、彼の平穏無事な印象の見た目にはまるで似合っていない。

「あの、これはなかなか珍しいタイプのご相談ですね。

くわしく話していただけますか?」

「は、はい。私のプライベートの話なんで、他の人には話さないと、約束していただけますか?」

「もちろんです。話しませんよ。まず、事情がわからなければ」

「では、お話します」

 

依頼人の話は、学生時代からの友人との因縁話だった。

依頼人は、学生時代から親しかったA氏と、最終的には恋敵になり、結局は、A氏も依頼人も失恋したのだが、A氏は依頼人に深い恨みを抱き、先日、依頼人に電話してきたという。

 

「すごい業者を見つけた。

霊能力を使う暗殺者だ。

俺はそいつにお前の暗殺を依頼した。

お前は呪い殺されるんだ。

もう後悔しても遅いぞ。

もう金は払った。

祈祷料だ。

警察は手が出さない。

ハハハハハ」

 

依頼人は、警察にも相談に行ったが、相手にされなかった。

霊能者のところへも何件か行ったけれども、どこも色よい返事はしてくれなかった。

「呪い殺すという以外は、あなたの身の上に何が起きるかは、わからないんですよね」

「はい。ただ、相手は3日以内と言ってました。

そして、あの電話があってから明日で3日なのです。

私はもう、どうしたら、いいのか」

依頼人は、怯え切っていた。

このまま、なにもせずにこの人を帰らせるわけにもいかないな。

「僕にできることは、してみましょう」

「ありがとうございます」

誠の言葉に、依頼人は深く頭を下げた。

誠からの提案は、期限の3日目が終わるまで、誠と共に行動すること。日中は、会社を休んで誠の事務所にいて、夜も、誠と同じ部屋で寝てもらう。

依頼人は、あっさりと誠の提案を飲んだ。

正直、依頼人の身の上になにが起きるかわからないが、側にいれば、いざという時、助けられるかもしれない。そう思った。

その夜、依頼人は、誠のアパートに来た。

依頼人に、誠が用意したお守りを身につけさせ、普段、誠が寝ているベットで横になってもらった。

誠はベットの横で椅子に腰かけ、一晩中、依頼人を見守った。

見たところ、普通に中年男性が寝ているようにしか見えない。

夜が明けて、依頼人は普通に目をさました。

翌日は、依頼人は1日、誠の事務所にいた。

不安そうな顔で、スマホを眺めたり、新聞や雑誌を開いて、時間をつぶしていた。

夜になり、2人で誠の部屋へ。

その夜も依頼人にベッドを貸して、誠は彼を見守った。

昼間、事務所で仮眠していたので、なんとか体はもった。

なにも起きなかった。

ただ、誰かに見られているような気はしたが、別に異常な現象はなかった。

 

朝になった。

「こうして3日はすぎたわけですが、あなたは無事なようです。

よかった」

「先生。ありがとうございます。

助かりました」

「僕はなにもしてないですよ」

「いえいえ感謝してます」

よほど安心したのか、大げさな身振りで礼を言って、依頼人は、去っていった。

 

誠が思うには、霊能力が強くても、呪術で人を殺すのは、けっして簡単ではない。

それを依頼を受けて金銭をもらって行うとなると、よほど腕に自信があるか、口からでまかせを並べて客をだます詐欺師まがいの霊能者かのどちらかだろう。

そして、世には腕のある霊能者よりも、詐欺師まがいものの方が多く存在している。

誠は、依頼人の呪殺を請け負ったのが本物でなくてよかった、と胸をなでおろした。

その晩、依頼人から電話があった。

 

「先生、まことに申し訳ないんですが、あいつから電話がありました。

私を殺すのに失敗したのは、先生が邪魔したからだ、あいつが呪殺を依頼した霊能者は、今回の失敗の仕返しとして、今夜、鈴木先生を殺すそうです。

先生、まさかこんなことになるとは」

依頼主は誠を心配してくれているらしく、声が震えていた。

「先生に万が一のことがあったら、私は、どうしたら」

「僕は大丈夫ですよ。

あなたはなにも気にしないでください。

明日の朝、また連絡します。

それでは、また明日、話しましょう」

誠はそう言って電話を切った。

完全な空元気で、なんの根拠もなかった。

もし、ここで殺されるのなら、それも自分の運命だと思った。

できることとしては、昨夜、一昨夜、依頼人に貸していた御守りを誠自身が身に着けることぐらいだ。

霊的ななにかが襲ってくるのなら、さすがに気づくだろうと思う。

夜が深まり、誠は床に就かずに、前夜、前々夜と同じく椅子に座って夜を明かすことにした。

部屋の明かりをつけたまま、椅子でうつらうつらとしていると、時計はすでに零時をまわっていた。

誠はあかりを消して、毛布を胸にかけた。

このまま、眠ってしまっても、問題ないような気もした。

霊能力で人を殺すなんて、結果から考えたうえでの、思い込みじゃないのか。

否定的な気持ちで考えてみた。

 

ん?

 

その時、誠は自分の口が自由がきかなくっているのに気づいた。

間に舌を挟んだまま、上下の歯が勝手に閉じていく。

このままだと、僕は、自分の舌を噛み切る!!

ほんの数十秒後に訪れる未来に、誠は恐怖した。

体は金縛りにあっていて動かせない。

自分の体の中で自由に動かせるのは、まぶただけだった。

上下の歯が、ゆっくり、ゆっくり、閉じていく。

歯が舌に喰い込んでいく。

 

呪殺で殺すって、こういうことか?

 

つぅ。

 

痛みが走った。

舌が切れて血がでている。

まだ、傷はそう深くない。

でも、ゆっくり、ゆっくり、歯は閉じていく。

 

僕はまだ、死ぬわけにはいかない。

 

誠は心を決めて、意識を集中して、口を思い切り、開こうとした。

口は動かない。

だが、あきらめずに、口を開けようとした。

傷は徐々に深くなっていく。

血の味がした。

これで舌を噛み切って死んでも、おそらく事故死として処理されて、誰も呪殺だとは、思わないだろう。

たしかに、プロの仕事なのかもしれない。

 

しかし。

 

「ぐわぁぁぁぁ!!」

 

誠は獣じみた叫びをあげて、思い切り、口を開いた。

 

ぐはっ。 

 

口から血とつばがこぼれ落ちた。

体に自由が戻っていた。

時計に目おやると、午前3時を過ぎていた。

知らない間に眠りに落ちていたのか、ずいぶん、時間が経っていた。

起きて、洗面所へ行き、うがいをした。

水が傷にしみた。

さすがにもう一度眠る気にはならないので、そのまま起きていることにした。

 室内で闇を眺めて、椅子の上でじっとしていた。

まだ薄暗い頃、午前五時過ぎに、警察の訪問を受けた。

件の依頼人を呪殺しようとしたA氏が、傷害で警察に逮捕されたらしい。

誠の部屋にきた警官の話だと、A氏が暴行を働いた相手は、霊能者で、その人物が昨夜、ほんの数時間前、誠を襲っていたとA氏が証言したのだという。

A氏の証言によれば、昨夜、霊能者は、仕事のミスを償うために誠を殺害しに行き、それにも失敗したので、A氏は霊能者に暴行したらしい。

暴行された霊能者は重症で、自ら警察に通報し、いま病院にいるそうだ。

誠は、A氏ともその霊能者とも面識はなかったし、霊能者に直接襲われたおぼえもないのを警官に話した。

「署まできていただけますか?

なんなら、容疑者と直接、会って話すこともできますが。

わけのわからない話なんで、鈴木さんに、きていただけると我々も助かるんです」

「すいません。今日は、結構です。

僕は寝ます。ここのところ、ろくに寝てないんで。

これから睡眠薬でも飲んで寝ますよ。

多少の呪いぐらいでは起きないくらい、ぐっすりとね」

 

END
☆☆☆☆☆

42話めは以上です。

この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

舌を噛み切って死にそうになったのは僕の実体験です。

これが呪殺なら、完全犯罪じゃんと思いました。

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