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100-8 「特別料理」

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100-8 「特別料理」

 

「大丈夫です。1人で寝られますから」

夜のお供に、お好きな女の子をぜひ、と言う、女将の申し出を断って、誠は1人で客室で寝ることにした。

食事も風呂も1人で済ませた。

女将の好意を無碍にしている気がして申し訳ないが、この館の女の子たちと、親しくなりたいとは思わない。

たしかに見た目はみんなきれいだ。

容姿端麗で、和服を着ていて、みんな日本人形みたいだ。

仕草もかわいらしくて可憐だ。それは認める、しかし、やはり違うのだ。

誠は彼女たちがみんな本来は男として生まれてきているのを知ってしまった。

この集落の呪いのせいで、あの人たちの人生は、おかしくなってしまっている。

お侍だか、落ち武者の呪いは恐ろしい。

この土地に生まれて、あんなふうにされてしまって、あの人たちは幸せなんだろうか?

誠には、あまり幸せそうには見えない。

女将の話だと、よその土地から来た男性が、ここの娘? を気に入って、その子と一緒になってここに住んだり、または、娘? を自分の土地に連れ帰って嫁にするケースもあるらしい。

きれいで、おしとやかではあるけれども、僕にはそこまでする気持ちはわからないな。

それよりも、夜、客室に敷かれた布団にこうして横になっていると、誠は外で鳴く、家畜? たちの声が気になりはじめた。

ここは人里離れた山奥なので、食糧も多くは自給自足でまかなっているのだろうと思う。

だから、飼われている豚や牛などがこうして鳴くのだろう。

しかし、いま、誠の耳に届いてくるこの声は、その数が多すぎる気がした。

 

「ぶおぶおぶおぶおぶおぶおぶお」

 

地の底から響いてくるような、低い鳴き声がいくつも、いくつも、聞こえてくる。

昼間は気にならなかったのに、夜だからか、いやに耳について、寝つけない。

これだけ鳴き声が聞こえるのならば、近くにいるはずだ。

「どこで家畜を飼っているんだろう?」

昼間は、この館の周囲には、そんな建物は見えなかったが。

家畜の世話は、あの娘? たちがしているのか?

気になった誠は、客室を抜けだして、館を探検してみることにした。

家畜が飼われている場所へ行ってみるつもりだ。

古い日本家屋である館内は、暗くはあったが、ところどころに灯りがついていて、さすがに暗闇ではない。

 

どこにいるんだ。

 

誠は耳をすまして、声のする方へ歩いて行った。

 

「ぶおぶおぶおぶおぶおぶおぶお」

 

声は途切れず、続いている。

迷路のような館を、誠はさまよい歩いた。

10分、20分、しばらく歩くと、誠は足をとめた。声はだいぶ、近くなっている。

しかし、声の聞こえてくる場所が、だんだんと低くなってきたのは、不思議だった。

それはまるで、文字通り地底から響いてきている感じがした。

 

地下?

地下に飼育施設があるのか?

 

誠は、床に膝をついて、耳を床にあててみた。

高さが近いせいか、こうすると声がさっきよりもずっと近く聞こえる。

 

「ぶおぶおぶおぶおぶおぶおぶお」

 

「鈴木さん。どうかされましたか?」

暗がりから、ふいに姿を現したのは、女将だった。

「夜中にこっそり歩き回るなんて、お人の悪い。

うちはこれでも、若い女の子ばかりが住んでいるんですよ。

殿方にうろうろされたら、みんな怖がるじゃありませんか」

「いえ、あの、すみません。この声が気になって。これって、どこで飼ってるんですか?」

「飼ってるなんて、おもしろいことおっしゃいますね」

 

「ぶおぶおぶおぶおぶおぶおぶお」

 

家畜たちの声にかこまれながら、家畜を飼っている、というのは、おかしんだろうか、と誠は思った。

「鈴木さんは、この子たちが気になって、見にこられたんですね?」

「ま、まぁ、そうです。

昼間は聞こえてなかったと思うんですが」

「ですねぇ。昼間はおとなしいんですよ。

翌朝、殺されると思うと、恐ろしいのか、毎晩、夜ふけになると鳴くんです。

「死にたくない、死にたくない」って言ってるのかもしれませんね」

女将は、誠を案内するように、前に立って歩きだす。

女将が、ある部屋の前で足を止めた。

「ここです。

鈴木さん、足元にようく、気をつけてくださいね。あの子たちは、鈴木さんの足元にいますから」

女将が懐から取りだした鍵で、扉を開けた。

 

「ぶおぶおぶおぶおぶおぶおぶお!!!!」

 

鳴き声はもう、大合唱とでも呼ぶような大きさである。

誠は女将が開けた扉から、室内を覗きこんだ。

女将が蛍光灯のスイッチをONにする。

そこに、床から壁までにいたるところまでが、大きな食用ガエルで埋め尽くされた、まるで食用カエルの貯蔵庫だった。

あの、鳴き声は豚や牛でなく、カエルなのか。

「ぶおぶおぶおぶおぶおぶおぶお」

「これは、飼育してるんですか?」

「いいえ。食べるだけです。

ウチの娘たちは、特別な体ですから、昔から、この土地にいるこの子たちを食べて、精をつけてるんですよ。

今夜の晩御飯にも出ていたと思います。

気づかれませんでしたか?

この子たちは、本当に、いろいろ人間そっくりで、食べてもおいしいし、いい栄養なんですよ」

「この土地の特産のカエル、ですか?」

「ええ、そうですよ。天然記念物にも選ばれております。

数はいくらでもいるので、どれだけ食べてもすぐに増えます」

「ぶおぶおぶおぶおぶおぶおぶお」

大きく醜いカエルたちの目線を感じながら、

誠は

 

「これも呪いなのか」

 

と考えた。

カエルを食べ続ける人間と、食べられ続けるカエルと、どちらが不幸なのだろう、と。

 

END

 

☆☆☆☆☆

 

8話めは以上です。

この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

これまでのブログ同様、ご意見、ご感想、お待ちしてます。

 

 今日も楽しいですね。

 

私は、カエルは食べません。

カエルは苦手です。

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