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100-38 カルトとカリスマ-3

 

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100-38 カルトとカリスマ-3

 

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古寺での行を終えて、支部内でのIのカリスマ性は一気に高まった。

Iは口先だけでなく、体を張って信仰に打ち込んでいる。

言動一致の信頼できる人間だ、みたいな評価が支部内では普通になりつつあった。

Iを慕う若い信徒たちは、普段からIと行動をともにして、街中、街灯でも毎日のようにビラを配ったりして、会の拡大につとめるようになった。

若者たちのなにかに向けたい若いエネルギーをIはうまく、会への信仰へと向けさせている感じがした。

実際、新会員を獲得してきた若い信徒に、Iが小遣いを渡している、という話を聞いて、誠は、Iに口頭でたずねた。

「I先輩。新会員を入会させた人に、お金を渡してるんですか?

それじゃ、保険の勧誘とかと同じじゃないですか? 

けっこうな額のお金を渡していると聞きました。

どうなってるんですか?

みんなお金のために勧誘してるわけじゃないのに、これでは、カン違いするものもでてくますよ」

Iは誠からの抗議にしたり顔で頷いた。

「鈴木くん。

きみみたいな考えも、会のためには必要だ。

それと同時に人間にはいろんなタイプがいる。

お金のために会のために働いてくれるなら、別にそれでもいいじゃないか。

きっかけはそうでも、会に新会員が入ることは最終的には全員の幸せにつながるんだ。

視野を広くもって、長い視点で考えようよ。

小さく、狭くては、なにごともダメだ。

鈴木くんにもいずれわかる時がくるよ」

「例え短い間でもお金で動くのは、信仰とはまた別の問題だと思います。

金銭への欲は魔を招きますよ。

先輩、違いますか」

誠が語気を強めても、Iは動じなかった。

Iと彼を慕う若い信徒たちの働きで、支部の会員は、短期間で急増していった。

ほんの半年で数千人も会員が増えたらしい。

誠は、Iと距離をとるようになった。

Iは自分の取り巻きたちろいつもに一緒にいて、会社市長や医師などの資産のある会員たちと親しく交際しているようだった。

Iの取り巻きグループに入るには、〇人以上の新会員を入会させなくてはダメだ、〇円以上の会への寄付を引っ張ってこなくてはダメだ、といった噂がまことしやかにささやかれるようになっていった。

そのうちにIは、資産家の信徒の娘さんと結婚した。

Iは嫁の実家一族が経営する企業の重役になった。

海外にも支社のある企業で、I自身、年に数千万円の収入が得られるらしい。

結婚式の招待所が誠のところへも届いたが、誠は行かなかった。

Iが目指していたものが、これなのか、と呆れた気分だった。

Iからハガキがきた。

海外のリゾート地らしい海岸の写真の下に、手書きで一行、「会の信徒になってよかったです。鈴木くん、幸せですか?」と、書かれていた。

富を得て、社会的地位も得て、Iは成功者になったのだろう、と誠は思う。

だが、自分はそうなりたいとは思わない。

金銭があるなしではなく、Iのそれは、誠が求めている幸福ではないと誠は言い切ることができた。

いまの立場になれたのなら、Iは別に会の信徒でなくてもよかったのではないかと思う。

しかしまぁ、Iを目指して、彼のマネをして、それで結果、その人なりの幸福になれる人がいるのなら、それもそれでいいだろう、と誠は思った。

結婚からしばらくして、現支部長が引退して、Iは後を継いで、支部長となった。

誠は一信徒として家族と共に会に所属し続けた。

地元の優良企業のヤングエグゼクティブのIが支部長であるのは、会としても対外的にも体裁がよかった。

この頃のIはむかうところ敵なし、といった感じであった。

誠はこの人は、会の支部長になって財を築くためにうまれてきたのかもしれない、と思ったりもした。

しかし、そんな繁栄にも終わりはきた。

まず、Iの義理の父親である会社社長が焼死した。

タバコも吸わない人だったのに、自宅で不審火がでて、全焼したのだ。

一族企業の要だった義父がなくなって、グループは分裂した。

Iはグループを離れ、すでに二人の子供がいたのに、妻とも離婚した。

これまでとはまた違った種類のIの悪い噂をきくようになったのは、この頃からだった。

Iが複数の信徒の女性たち関係を持っている。

誠の耳に入ってきた時、それはすでに深刻な問題だった。

Iは未成年と関係を結び、その女性信徒は妊娠してしまっているらしい。

妻と離婚したのに、自分と一緒になってくれないIの態度に、彼女は、ノイローゼ状態になってしまい、自殺未遂を繰り返しているという。

「鈴木さん。あの子に会ってあげてください」

年配の信徒にそう言われても、誠は、なぜ、僕が、と思った。

「これは僕は関係ないじゃないですか」

「支部の中で、Iさんに意見できる古参は、鈴木さんしかいないんです。

お願いします。

鈴木さん。I支部長にもっと行動を慎むように、進言してください」

「Iさんはもう、僕の話なんかききませんよ」

「鈴木さん。実は、私はその女子部の信徒から、I支部長を連れてきて欲しいと頼まれているんです。そうしなければ、鉄道に飛び込んで、自殺すると。

今夜23時に、彼女は国道○○線のところの線路の脇でI支部長を待っています。

私からI支部長に電話してもでてくれません。

鈴木さん。もう、時間がないんです。

I支部長の代わりに彼女のところへ行ってくれませんか」

むちゃくちゃな話だった。

しかしこのまま無視するわけにもいかない。

誠はIに電話したが、Iは出なかった。

誠は自分の車で国道○○線沿いの線路へむかった。

車中、誠は心の中でIを呼び続けた。

I支部長。

I先輩。来てください。

I先輩、早く。

車が着くと、たしかに彼女は、線路脇に立っていた。

誠は彼女の横に駆け寄った。

彼女は、誠をみて、黙って首を横に振った。

「なにしてるんですか。帰りましょう。こんなことしても、なんにもならない」

誠の言葉に返事は返ってこない。

彼女が指定した11時まではまだ時間があったが、彼女は誠が来たことで、もうIはここへこないと考えたらしい。

ちょうどこちらへ向かってきた電車へむけて、体を投げ出した。

「待てっ!!」

誠は叫びをあげて、彼女に飛びついた。

横からタックルするように体当たりしてきた誠に、彼女は体勢を崩した。

誠の靴のつま先が、2人の真横を通り向けていく電車の車両に引っ掛かり、誠は電車に巻き込まれるように、ゴロゴロと数メートル道路を転がって、靴が脱げたと同時に、電車にはじかれたような恰好で、アスファルトに投げ出された。

「うぐぐぐっ」

うめき声をあげて誠は起き上がり、彼女の姿を探した。

彼女も電車に衝突してはいないはずだ。

「I、先輩」

と、立ち上がった誠の少し先にIが立っていた。

Iの横に彼女はいた。

Iは彼女の肩を抱えたまま、誠のところへきた。

「鈴木くん。ぼろぼろだな」

誰のせいだと思ってるんだ、と誠は一瞬、怒鳴りそうになった。

が、さっきのダメージで体中が痛くて、立っているのがやっとだ。

「鈴木くんに呼ばれた気がして、来たんだ。オレを呼んだのか」

「はい」

とりあえず、それだけは答えた。

誠の念がIにつうじたらしかった。

「鈴木くん、オレは会を止めようと思う。一緒に来ないか?」

と、急に聞かれても、答えられるわけもなかった。

 

END

 

 

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 38話めは以上です。
 この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
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