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ゴーストはゴーストとしか言いようのないもの「ゴースト・イン・ザ・シェル」(2017)

 

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画像出典元URL:http://eiga.com

2017年公開の「ゴースト・イン・ザ・シェル」は、ルパート・サンダース監督、スカーレット・ヨハンソン主演のハリウッド映画で、1995年に劇場公開された日本のアニメ映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」(監督:押井守 原作:士郎 正宗)とその続編の劇場用アニメ「イノセンス」(2004)監督、原作は前作と同じ。をベースにしている作品です。

 

漫画家、士郎正宗が描いた漫画「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」の単行本が発売されたのが1991年で、その4年後に押井守監督のアニメ「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」が公開され、国内外のアニメ、漫画、SFファンの注目を集めました。

 

とは言っても1995年の当時、僕が劇場でこの映画を観た時は、場内はがらがらで、秋の平日の午後とはいえ、こんなにお客さんの入っていない作品を制作する会社もすごいな、と思ったのをよくおぼえています。

 

おたく、ロリコン、アニメ、ホラーマニアと報道された連続幼女誘拐殺人犯の宮崎勤の逮捕、バブル崩壊による大不況と、おたく、アニメファンに世間の風当たりはきびしく、劇場用アニメ映画になどなかなか出資会社のない時代でした。

 

当時はネットも普及していなかったし、公開後すぐに評判になるというものでもなくて、この作品もじわっじわっと各所で、

「ねぇ、アレ観た?」

「アレ、ちょっとすごくない?」

「かなりすごいよね」

「いや、めちゃくちゃすごいよ」

サブカルの誌の小記事やクチコミでささやかれる形で、評判がひろがっていった記憶がありますね。

そして、2002年にTVアニメ版の神山健治監督の「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」がペイ・パー・ビュー(有料放送)で放送されて、2004年からは地上波での放送も始まり、これが人気を呼び、全米のCATVの視聴率1位を記録したり、東京国際アニメフェアで公募・アニメ作品部門優秀作品賞を受賞したりもしました。

本格SFアニメだった「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」は、SFに対して市民権がある(映画、小説の優れたSF作品やSF作家がリスペクトされる風土がある)アメリカの方が日本よりも受け入れやすかったと思います。

士郎正宗の漫画からスタートした「攻殻機動隊」の作品世界は広がり続けており、2019年5月の現時点で、2020年にNetlix で全世界独占配信予定のフル3DCGアニメーションが制作中です。

そんなこんなの大人気コンテンツとなっている「攻殻機動隊」ですが、

 

あなたがもし「攻殻機動隊」を以前から観ているファンだとしたら、ハリウッド実写版の「攻殻機動隊」を観たいですか?

 

さらに続けてもう一つ、

 

「攻殻機動隊」ファンが納得する実写映画「攻殻機動隊」とは、どんな作品ですか?

 

1つめの質問の答えは、回答者がハリウッド映画を好きかどうかでだいぶ返事が違う気がします。

またアニメ作品の実写化は、ハリウッドでも邦画であっても、そもそも歓迎しないファンが多いという現実があります。

 

2つめに関しては、答えは大きく2つにわかれるのではないでしょうか。

ひたすらアニメに忠実に作られた作品か、思い切りアニメから離れた新「攻殻機動隊」とでも呼ぶべき作品(ただし内容がおもしろくなければダメ)。

で、「ゴースト・イン・ザ・シェル」の制作陣が選んだのは、寄せられるだけ過去のアニメ版に寄せて、そして、時間(尺)と予算の都合で一部改変を加える、でした。

僕は、今回の映画化スタッフが最も大事にした部分は、

 

ゴースト

 

だったと思います。

 

この作品内で語られているゴーストとは、脳と脊髄の一部の部分以外の全身を義体(機械)化した人間にそれでも残っているその本人の個性とでも呼ぶべきものですね。

主人公の少佐こと草薙素子(クサナギ モトコ)は、全身を義体化している人間ですが、自分の直感で物事を語る時、それを「ゴーストの囁き」と言います。

今回の映画の中で、

 

「ゴーストは脳でもなければ、魂でも、心でもない。その人そのものとしか言いようのない個性だ」

 

と言うセリフ(たしか)があるのですが、

ほぼ全身を機械化してもそれが宿っているのなら、それはゴースト(幽霊)と呼ぶのがふさわしい気がするのです。

一般に幽霊もしくは霊性とでも呼ぶような、数値化、可視化できないものが、人間1人1人に備わっていて、それを自分のアイデンティティとするのならば、それは間違っていませんよね。(まさに自分にしかない自分の証です)

なんてSFで、ファンタジィなアイディアでしょう。

2019年の現在、アニメ映画版が1995年に公開された時に、観客や多くのクリエーターに衝撃を与えた映像的な新鮮さは、もはやありません。

 

義体も、自己をデータ化してのサイバー空間への潜入も、記憶の書き換えも、光学迷彩も、スタイリッシュなガンアクションも、それらはすべて「マトリックス」(1999)をはじめとする映画、アニメ、マンガ、ゲームの中で再生産され、すっかり消費されてしまいました。

 

「ゴースト・イン・ザ・シェル」のビジュアルはいまや新しくなくなってしまいましたね。

 

でも、それでも2010年代のいまも「ゴースト・イン・ザ・シェル」という作品が持っているオリジナリティはなにかと言えば、それはゴーストだと思います。

 例え、本人が物質的には、脳さえなくし、完全にデーターとしてネットの海に消えてしまっても、それでも、その人のゴーストは消えない。

「イノセンス」の作中では、すでにネットを漂うゴーストとなっている素子が、ネット経由でコンピュータや義体を操って、バドーの応援をしていました。

僕の場合、今作でよかったところは、セリフやストーリーに、制作陣のゴーストへのこだわりが感じられたことですね。

映画におけるCGもSFXも、もはやよほどこれまでにない手法を取り入れない限りは、多くの予算を費やした方が勝ち、という状況です。

その状況下で、ゴーストという概念に思い入れを持って映画化された本作は、立派なSFおたく映画です。

そりゃ、海外でも日本でも大ヒットは難しいですよね。

それでも、「ゴースト・イン・ザ・シェル」を実写で観たいという方か、主演のスカーレット・ヨハンソンのファンの方、超大作でなくてもSF映画が好きだ!! という方へオススメします。

5点満点中3点(107分という手頃な時間にまとめたのは立派ですので、+0.5点です)

 

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