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100-46 爆発

100-46 爆発

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 「本当に人にお話するのは、どうかと思うような体験なんですよ」

その日の依頼人は、友人に紹介されて、誠のところへきたそうで、そもそも自分は、霊能者のところへなどくる気はなかった、とはっきりと口にした。

「お話して、どうにかできることではないと思うんです」

30代くらいの女性だ。

さばさばした感じにみえる。

体は細く、身が軽そうだった。

すでに主婦でまだ小さい子供がいるのかもしれない。

しかしまぁ、客は客である。

霊能者が信頼できなくても、こうして誠の事務所まできて、椅子に腰かけている以上、むげにはできない。

「そうですね。

実際、常識では考えられないような出来事って、案外、身近で、日常的に起きていたりするんですよ。

例えば、これは実際に現役のお医者さんから聞いた話なんですが、ほら、お客様も聞かれたことがあると思いますが、ガンが消えるとか、言いますよね。

ステージ4まですすんで、余命いくばくもなかった患者の体から、ある日、突然、きれいさっぱりガン細胞が消えてしまうんだそうです。

そこにはなんの法則性もなく、どんな人のガンが消えるのか予想もできない。

でも、全世界の病院でそれは起きてるんです。

僕は、外科医として、何回か自分の患者さんのガンが消えたお医者さんとお話しました。

その先生は、まったく信じられないことだが、本当に消えたんだ。

と、おっしゃられていました」

「鈴木先生は、それで、なんてお答えになったんですか?

それって霊的な現象なんですか?」

依頼人はすこし興味を持ってくれたらしく、誠にたずねてきた。

「僕にもさっぱりわかりませんよ。

ただ、多くの人はそうした不思議な体験をすると、僕なんかのところへ話をしにきてくれる場合が多いですね。

そして、お話を聞いて、僕ができること、知ってることがあれば、お手伝いさせていただいている、という感じです」

「じゃぁ、私の話も他に同じような目にあった人がいれば、先生は教えてくれるんですか?」

「それは、みなさんのプライバシーをお守りするのは当然ですが、話せる範囲でお話しできると思いますよ。

よく似た話を以前に経験しましたよって感じです」

「うーん。よく似た話、あるかなぁ」

依頼人は難しい顔をして、首をひねった。

そしてしばらく黙った後、意を決したように、誠をまっすぐ見つめた。

「お話して、私の気が楽になるなら、話すだけ、話してみようかな」

どうやら、話す気になったらしい。

「どうぞ。ご自由にお話ください」

 

「あの、私、子供がいるんです。

まだ幼稚園児の男の子です。

名前はCって言います。

で、Cくんがある日、新しいお友達ができたってすごくはしゃいでいて、幼稚園が終わった後、その子と遊ぶ約束をしたから公園へ連れてけって、私に言ったんです。

私はCくんと近所の公園へ行きました。

するとそこには、うちと同じようにお母さんに連れられた男の子がきていて、その子、Dくんっていいます。

うちのCくんとDくんは、2人で公園の遊具なんかで遊びはじめました。

気が合うらしく、キャッキャッって大盛り上がりでした。

私はDくんのお母さんと一緒に子供たちが遊んでいるのを眺めていました。

そのうち、公園の砂場で、CくんとDくんは、土で作った団子をぶつけあいはじめたのです。

公園の水道の水で泥を濡らして、それをかためて団子にして、相手に投げるんです。

小さい子供ですけど、男の子同士、遠慮なく、相手の全身に泥団子をぶつけていました。

私もDくんのお母さんも、まぁ、子供のすることだからと、それを見守っていたんです。

 

そしたら」

 

依頼人は、言葉を区切った。

 

ここまで話して、また迷いだしたように黙っている。

 

「どうしたんですか?

事故でもおきましたか?」

 

誠は話の先を促す感じでたずねた。

「爆発、したんです」

「爆発って、なにがです?」

「泥団子がばーんって、爆発して、CくんもDくんも吹き飛ばされたんです。

私もDくんのお母さんも、驚いて、子供たちに駆け寄りました。

すごい音がして、派手な砂煙があがりましたけど、砂場ですから、Cくんも、Dくんも倒れていたけど、ケガはなく平気でした。

ただ、2人で泥団子をぶつけあってたら、いきなり、ばーんってなったって言ってました」

「砂場の土の中に爆竹でもはいっていたんですかね。

ともかく、ケガがなくて良かった」

月並みだが、それが誠の感想だった。

「爆竹とか、火薬はなかった思うんです。

匂いはしなかったし。

それで、その後、砂場を調べてみたら、これが」

依頼人は、バックから、古ぼけた靴を一足取り出した。

それは子供用のズックでずいぶん昔のもののようだった。

「どこかの子が忘れていったんですかね?」

「いえ、それ、私の靴なんです」

依頼人は、赤いズックを誠の前に置いた。

 

「どうぞ、見てください。

それ、横にマジックで名前が書いてありますよね。

それ、結婚前の私の名前です。

その靴、記憶にあるんです。

たぶん、幼稚園ぐらいの時、私、はいてました。

母が捨ててなければ、実家のどこかに閉まってあったんだと思いますけど」

「その靴が急に、公園の砂場に現れた、と」

「変な話ですよね」

「その靴がそこに現れた衝撃で、子供たちは吹き飛ばされた、と」

「そんなことって、あるんですかね」

あるもないも、こうして靴がある以上、そこでなにかが起きたのだろう。

しかし、誠もこんな話ははじめて聞いた。

 

「鈴木先生。この靴、処分して下さいますか?

実家に持って行ってたしかめる気にもならないし、私、おてんばだったから、その靴を履いてた頃の私だったら、CくんとDくんに、ぱーんと蹴って靴をぶつけるくらいは平気でした気がします。

姿は見えなかったけど、子供の頃の私が、2人の泥団子合戦に乱入したのかな、って思うんですよ。

違いますかね」

「さぁ」

誠にはなんとも答えようが、なかった。

依頼人は、靴を残してすっきりした顔で帰っていった。

役に立てたのならいいけど。

誠は、後に残った靴をどうしようか考えた。

 

 END

☆☆☆☆☆

46話めは以上です。

どんな職場でも説明のつかない不思議なことってあるらしいですね。

僕はそんな話を聞くのが好きです。

時には、話して下さる相手がひくくらい、大マジメに聞きます。

なにかそんな話がございましたら、本気で本までご遠慮なくどうぞ。

この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

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